書評 2018.11
部下を元気にする,上司の話し方
コミュニケーション研修のプロインストラクターによる上司のための行動ガイド。傾聴やフィードバックのテクニックに走る前に,人間関係のレベルで相手と適切な距離を保ち,信頼感を醸成していくことが先決だと力説し,数々の独自ルールをまとめている。関わり方の基礎を誤ると「親しみやすさ」のはずが「馴れ馴れしい」に,「自己開示」のはずが「自己陶酔」に,「感謝される」はずが「迷惑がられる」にギャップを拡大させてしまうと指摘する。より本質的な問題は「褒め方・叱り方」以前に,相手に関心を持つ“ココロ”の有無だと述べ,例として,女性脳(好き嫌い)・男性脳(理由・根拠)の構造から解き明かしている。また,優れた上司は部下への対峙に並んで“自身のご機嫌を取ること”も大事にしていると看破し,その秘訣も明かす。ポジションパワー(役職)の効果が小さくなる時代だからこそ,パーソナルパワー(人間力)の余地は大きいと見て,部下に報連相を求めるのではなく,部下が報連相をしたくなる上司を目指そうと,背中を押す。
●著者:桑野麻衣 ●発行:クロスメディア・パブリッシング/2018年9月21日
●体裁:四六版/254頁 ●定価:1,380円(税別)
定年まで待つな!
40代・50代のミドルエイジが,この先,路頭に迷わないための生き方を探った1冊。退職金は減額または廃止,年金は減少,医療費は負担増,消費税は上がり続ける状況が必然だとすると,従来の老後モデルは成り立たず,60になっても70になっても「稼げる自分が大事だ」と説く。大企業勤務でも役員以上への昇進の可能性が薄いのなら,割増退職金付の「早期退職制度」はチャンスだと述べ,地方や海外に活路を見出す“ダウングレード戦略”を提案している。地方への注目では,後継者不足なだけでブランド力もインフラも健在な“つぶれかけの老舗”を狙えと語る。また,海外に「教えに行く」のは昔話であり,今はアジア諸国のほうが先進システムを取り入れていると紹介し「一緒に働く感覚が重要だ」と認識の転換を迫る。「MBA」は“学位取得の趣味”でしかないと手厳しく,身に付けるべきスキルに「簿記」と「IT(ScratchやXcode)」を挙げる。持ち家は売り払え,クルマは持つなと極論も交えながら呪縛からの解放を明るく小気味よく訴求している。
●著者:成毛 眞 ●発行:PHP研究所/2018年10月2日
●体裁:新書版/199頁 ●定価:850円(税別)
働き方改革は若者の就業を変えるか
「働き方改革」を巡って,事実を時系列で追い,統計をひもとき,広く専門家らの論考を読み込んだうえで賛否を整理し,概況の把握と課題克服の道筋を探った力作だ。改革の要点を「残業抑制」「柔軟な働き方」「同一労働同一賃金」の3本柱と捉えつつ,課題そのものは15年も前から識者らが指摘していた(しかもほとんど改善がなかった)と振り返る。著者自身は,企業経営に携わってきた立場から,「働き方改革」と「労働生産性」の両立は理屈以上に難しいと述べ,壁とされる「日本的雇用慣行」を経済合理性だけで捨て切れるのかと疑う。とりわけ,経済成長のために雇用流動化に舵を切るとするなら新卒採用を止め,定年制を廃止し,産業別職務給に移行させるなど社会構造を大きく変える必要があるとし,その覚悟があるかと問う。現実には,労務管理の質を高め,評価制度や賃金制度を改革に沿ったものへと変えていくことになるだろうと予見。構造全体を俯瞰し,様々な意見を統合・昇華させ,共通認識を得ていくのが改革の近道だと言い添えている。
●著者:中込賢次 ●発行:日本生産性本部生産性労働情報センター/2018年10月5日
●体裁:四六版/224頁 ●定価:1,300円(税別)
人生100年時代の「出世」のカラクリ
これまでのキャリア認識が「卒業・就職・引退」の3ステップ完結型だったとすれば,これからは「多様な選択肢・複数同時」のマルチステージ型が主流になると著者は見ている。とりわけ,人事コンサルタントの立場で多くのエリート社員たちと関わってきた経験から「出世意識」に着目し,個人の成長と企業の人材活用のベクトルを探る考察が興味深い。一社に留まる企業人材には,(安定しているからこそ)転勤や人事異動を恐れず積極的にチャレンジできるのではないかと問いかける一方,より専門レベルの高い仕事を目指して転職を繰り返すマーケット人材という活躍モデルも示す。「できそうでできない人」と「本当にできる人」の違い,経験・知識も豊富なのに「組織にいらないおじさん」の悲劇,企業理念と評価基準の矛盾から「うそつきな会社」を見分けるポイントほか,いずれのトピックも切り口は冴えている。安直なべき論(○○しなさい)ではなく,資本・経営・上司・出世・副業等をネタに“からめ手”から誘い込んでいくスタンスも面白い。
●著者:平康慶浩 ●発行:日本経済新聞出版社/2018年10月9日
●体裁:新書版/235頁 ●定価:850円(税別)
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