*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME
 HR BOOKs
  

書評 2018.12

気づきを促す対話型研修のススメ

 社内講師・社内講師育成担当者のための,現場運営ノウハウが綴られた1冊。壇上から一方通行で語るセミナー形式ではなく,演習を取り入れた「場」をコントロールするファシリテーションを中心に扱い,「対話型研修」と名づけた基本フレームを提案している。どの研修テーマも,@知識インプット,A個人演習,Bグループ討議,C全体共有,D講師コメント,E言語化・行動化,という6つのステップでセッションを組み立て,受講者の気づきを導く設計に特徴がある。講師には,教えたい結論に誘導するのではなく,多少の脱線も想定内としたうえで場の活性に注力し,参加者の内省をサポートする難度の高いポジションを期待。講師自身が黒子に徹する覚悟と当意即妙に「問い」を返すコツを明かしている。本書の後半「場づくりの技術」の章では,いわゆる研修インストラクターのスキル(視線,声の大きさ,手足の動かし方,研修効果測定に至るまで)が詳述されているので,社内講師マニュアルの補強,ブラッシュアップにも参考余地の大きい資料だ。

●著者:島森俊央  ●発行:日本生産性本部生産性労働情報センター/2018年10月30日
●体裁:四六版/157頁  ●定価:1,500円(税別)

Q&A働き方改革法の解説と企業の実務対応

 働き方改革法によって企業の実務対応が大きく影響しそうなポイントを,8人の弁護士・社労士が分担して解説。46にわたるテーマをQ&A形式でまとめている。働き方改革法の制定経緯を入口に,労働時間関係(上限時間,有給休暇の義務化,フレックスタイム制,インターバル制,高度プロフェッショナル制),労働安全衛生法関係(産業医制度の活用),労働者派遣事業関連,有期雇用労働者の待遇(差別待遇の禁止,均等待遇規定),労働契約法(パート有期法,不合理な労働条件の禁止,非正規労働者に対する待遇説明義務),行政ADRの整備(紛争解決手続き)等の概要解説と企業の実務対応をアドバイスしている。また,巻末の「資料」では,労働基準法(抄)・労働安全衛生法(抄)・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(抄)・労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(抄)の条文を忠実に収録し,新旧の比較を載せている。一言一句,原文に立ち返って変更点を確認したいときなど参照のしがいがありそう。

●代表編集:岩出 誠  ●発行:ロギカ書房/2018年11月1日
●体裁:四六版/217頁  ●定価:2,200円(税別)

世代間ギャップに勝つ ゆとり社員&シニア人材マネジメント

 人材育成分野で講師実績も豊富な著者は,若手とシニアの両者に対峙する管理者の苦労を危惧している。世代間の価値観があまりにも異なる組織状況を「縦のダイバーシティ」と捉え,若手とシニアの両者を活性化させ生産性を上げるヒントを語っている。世代ごとの特徴や時代背景を整理したうえで,マネジメントのキーとして「ハイコンテクスト」と「ローコンテクスト」の概念に着目。ローコンテクストの若手には精緻・論理的・合理的に言語化して物事を伝えてはどうかと提案し,仕事の依頼時に意味や手順を説明するほか,飲み会に誘うときにも,意義や効果を説く必要があるとする。一方,ハイコンテクストのシニアには、ときに論理的でも合理的でもない感情に働きかけ,敬意・感謝・ねぎらいの気持ちの伴った相談をもちかけるスタンスを勧める。後半の章ではすぐに使えそうな具体的なセリフをシーン別に紹介するとともに,管理者の立場については「子ども叱るな 来た道だ 年寄り笑うな 行く道だ」と意味深な言葉を紹介して締めくくっている。

●著者:西村直哉/江波戸赳夫  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2018年11月2日
●体裁:四六版/279頁  ●定価:1,400円(税別)

インディペンデントな働き方

 「人生100年」が共通言語化していく過程で離職は普通の選択肢の1つになっていく。誰もが独立して働く時代がまもなく来るという前提で,「週末起業」で有名な著者は,会社を卒業して精神的にも経済的にも周囲に依存しない働き方のガイドをまとめている。手がかりは,@好きなこと,A得意なこと,B必要とされること,の優先順位で,この3項目が重なる領域にあるという。それを「努力は夢中に勝てない」と言い当てる一方,「ラクな仕事とは違う」とも釘を刺す。10年あれば専門家になれるが,10年何もしなかったら単なる加齢だと覚悟を迫り,投資と労働対価の違い,勉強会の運営,読書法,時間の作り方等を具体的にレクチャーしている。独立に関して会社の上司・先輩から学べる余地は少ないと手厳しいが,「自分棚卸しシート」等を用いてキャリアを再確認していく手法は企業内研修にも相関がありそうだ。読者自身が独立起業の道を選ぶかどうかはともかく,キャリア開発の幅や奥行きを知るうえで,本書は有益なコンテンツに違いない。

●著者:藤井孝一  ●発行:三笠書房/2018年12月20日
●体裁:四六版/223頁  ●定価:1,500円(税別)

HRM Magazine.

【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki