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書評 2019.10

一人でも部下がいる人のためのほめ方の教科書

 航空会社CAの経験を活かしてコミュニケーション分野の研修を手がける著者は「ほめられると伸びる」効果は,承認とモチベーションの関係性にあると捉え,本書では具体的な「ほめ方」をシーン別に紹介している。要点をマーカーで目立たせ,キモとなるセリフを大きな活字とイラストでビジュアルに示しているので,読者は楽しく理解できるはずだ。解説の深さも十分で,部下が仕事をうまくやり遂げたときは当然,仮に失敗したときでもほめ方はあると補足し,トライをねぎらい,次につなげる一言を例示している。また,「ほめっぱなし」が慢心を招くリスクにも目配りし,さらなる成長のためにスモールステップを言い添えるスキルにも言及。さらに成長のためには叱ることも大切だと指摘し,モチベーションを保つ例として「感謝+クッションの言葉+叱る+励ましの言葉」という方程式をレクチャーしている。欠点を探すのが人の本能ゆえリーダーたちには特に意識して相手の良いところを見つける訓練が必要だと語り,上司の側の行動変革を求めている。

●著者:中村早岐子  ●発行:かんき出版/2019年7月8日
●体裁:四六版/192頁  ●定価:1,300円(税別)

人材争奪

 HR分野に造詣の深いコンサルタントの著者は,GAFAに象徴されるグローバル先進企業の動向を追いながら,日本企業の人事を問うスケールの大きな考察を本書にまとめている。集団一括採用の後にハイパフォーマーの選別を進めていくようなやり方では変化対応に間に合わず,世界では事業戦略に必要な卓越したタレントをあの手この手で獲得していく競争が始まっていると,産業構造の変化から説き起こしている。その過程では高付加価値人材を獲得するコストは惜しまないが,その他の欠員補充ならいつでも市場価格で調達できると割り切るドライな側面も描き出す。ただ,圧倒的な創造性をもたらす個人が必ずしも高額報酬で惹きつけられるわけでもない最近の傾向にも着目。世界市場を席巻するグローバル企業も,エンゲージメントのポイントが内発的動機にあると気づき始めたと分析している。改めて日本企業には,世界最先端のスタイルをそのまま真似る必要はないとしつつ,「専門性・創造性・多様性」の3つの軸を手がかりとする人事政策の再考を促している。

●著者:平本宏幸  ●発行:日本経済新聞出版社/2019年7月19日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,500円(税別)

部下の心が折れる前に読む本

 全国1,500以上の職場組織にメンタルヘルスケア分野のソリューション事業を展開している著者は,ビジネス環境(業務の質量,組織コミュニケーション,ITツール,等)の変化からメンタル不調者が増大する構造を解き明かし,退職者の増加など企業経営のダメージリスクを本書に指摘している。一般的な職場で不調を起こしやすい局面を例示し注意喚起を促す一方で,根本的な解決のためには,産業医,人事部門,現場を含めた予防対策の仕組みを構築・運用していく必要があるとも述べ,その進め方を5つのステップに切り分けて提案している。具体的には,@産業医の選任と関係の構築,Aチームで取り組む体制づくり,B上司・管理職に対する働きかけ,C社員1人ひとりに対する働きかけ,Dメンタルヘルス予防の仕組みの全体計画,の5段階。取り組みを経営者が宣言し,数値目標を掲げてPDCAを回していく計画的な推進をモデルに挙げる。部下管理の巧拙といった次元ではなく,人事部主体で組織的に健康経営を目指す推進ガイドとして読み込みたい。

●著者:刀禰真之介  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2019年9月2日
●体裁:四六版/232頁  ●定価:1,400円(税別)

40代から伸びる人 40代で止まる人

 人生100年時代といわれる今後,キャリアは自身でコントロールする必要があるというのが,本書の基本的な訴求だ。役職定年まで会社任せでいたのでは,その後の長い人生は行き詰まるという仮説から逆算し,能動的にキャリアを向上させていくタイミングは「40代」ではないかと注目している。さらに「キャリア」には仕事以外の経験要素も含まれるとして「ワーク・ライフ」に加え「ソーシャル」の活動領域を提案。例えば,身に付けたいリーダーシップは,職場での部下管理に限らず,社会活動や自身をコントロールするスキルでもあるはずだと広い視野からの行動を求めている。具体的な取り組みでは,「メンタルタフネス(ストレス耐性)の強化」と「ピアコーチングによる学びの習慣化」の2点を重点ポイントに挙げている。前者では思考のクセから抜け出し,合理的・客観的に判断できる訓練法を紹介。後者では,“他人以上・友人未満”の人物にコーチングを依頼し,壮大な夢を習慣に細分化し,進捗を自己管理していく方法を詳述している。

●著者:渡部 卓  ●発行:きずな出版/2019年10月1日
●体裁:四六版/224頁  ●定価:1,500円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki