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書評 2019.12

人材トランスフォーメーション

 今,日本企業では,既存事業のライフサイクルが終焉を迎えつつあり,ブレイクスルーをもたらす創造型人材のニーズが高まっているという前提に立ち,そのような人材をどこから調達するのか,そもそも実像を絞り込めているのかと著者は問う。典型例に「DX人材」を挙げ“デジタルに長けたスーパー人材”程度の認識では救世主待望論に過ぎず,本当に必要な適材の確保には至らないと考察する。外部からの調達が難しければ,内部人材を育成し直すしかないが,その際は“研修に力を入れる”次元ではなく,採用基準を根本的に見直す(=面接官のマインドセットを変える)ところから決断が求められるとも指摘。蓄積されたオリジナルのコンピテンシー要件を示しつつ,例として「事業のネタを見つける人」と「ネタを事業化する人」を分けて人材像を絞り込む方法を提案している。さらに,創造型人材の活躍を周囲(旧来秩序)から庇護する上位者の存在も重要だと述べ,社員を旧型から新型へ移行させる「トランスフォーム」の現実的組織戦略論を展開している。

●著者:柴田 彰  ●発行:日本能率協会マネジメントセンター/2019年8月10日
●体裁:四六版/211頁  ●定価:1,700円(税別)

0円リクルーティング

 静岡県で不動産業を営む著者は,地方企業・中小企業・不人気業種にあっても新卒採用は可能だと,自社で取り組んできた秘訣を本書に公開している。ポイントは,アピール要素の棚卸しと学生目線での訴求だ。堅苦しい伝統・理念ではなく,“意外に楽しく,面白く,働きやすい”職場の現実をまず前面に出し,その段階では業種・業務の説明すら二の次で構わないと目から鱗の提案を綴っている。今の学生は「稼げる」「責任ある仕事を任せてもらえる」ではなく,「安定している」「休みやすい」「社会貢献できる」といった価値観を重視するので,インターンシップを含む接触機会を有効に活用し,応募者に身近に知ってもらえる存在になろうと語る。また,人事がじっと座っているだけでは学生たちは近寄らないゆえ,営業センスを発揮して(ナンパだと思って),学生たちに声を掛け誘い込んでいく積極姿勢を強調。一連の活動ではSNSが最強のツールになると注目し,日常的に情報発信を続け,応募者にとって有名な企業になる運用法を実例で解説している。

●著者:中島 敦  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2019年8月31日
●体裁:四六版/226頁  ●定価:1,500円(税別)

経営戦略としての「健康経営」

 このところ注目される「健康経営」につき,数年後,数十年後には当たり前の取り組みになっているだろうと期待込めて,主に学術的に捉えようと試みた1冊。歴史・先行研究から説き起こすアプローチながら,実証データからは一筋縄ではいかない側面も垣間見えて意外に面白い。例えば,健康経営に取り組む法人は「イメージ向上」を目的にしていなかったにもかかわらず,結果的にメディアで取り上げられるなど想定外の効果を実感している。逆に「医療コスト削減」という当初の目的に対しては,受診機会の増加に比例して罹患率が高まり(短期的には)コストメリットに反する結果になったという。さらに「生産性向上」は目標通りの実感を得たが,「モチベーション向上」には有意差が見られなかったとシビアな報告も紹介されている。基本的には研究者目線の構成なので,実務ノウハウからは距離のある内容だが,4社(富士通ゼネラル・ヤフー・SCSK・フジクラ)の企業事例などはしっかり取材されていて,企業人にとっても読み応えは十分だ。

●著者:新井卓二/玄場公規  ●発行:合同フォレスト/2019年10月31日
●体裁:四六版/224頁  ●定価:2,000円(税別)

中国人が上司になる日

 北京の大学に留学し,現地での勤務経験も長い著者は,日本人と中国人の商習慣や考え方の違いを本書に語っている。今は日本の老舗旅館や小売流通業を中国系資本が買収する時代であり,経営者として,またお客様として中国人が大量に来日する事態に至り,「中国人上司=日本人部下」の関係が当たり前になりつつある。この状況を捉えて著者は「好き嫌い」を言っている場合ではなく違いを相互に知る必要があると指摘している。中国人の商習慣・経営判断は良くも悪くもスピード感であり,それを受け入れられるかどうかが日本人従業員の分岐点になるだろうとも考察。クオリティとスピードが二律背反するときなど価値観の違いが顕在化しがちだとリスクを挙げている。もっとも,本書に繰り広げられるエピソードの数々は,「上司=部下」の問題に限らない。ケータイの機種でステータスを判断されるとか,副業やキックバックは誰でもやっているとか,キッチンのスポンジで風呂場を洗われたとか,実体験ベースの逸話が豊富で,ビジネス抜きで楽しめる。

●著者:青樹明子  ●発行:日本経済新聞出版社/2019年11月11日
●体裁:新書版/255頁  ●定価:850円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki