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書評 2020.01

人間使い捨て国家

 ブラック企業被害対策を手がける弁護士の著者は,かつてWEB制作会社での勤務経験があり,裁量労働制の実態をよく見てきたという。マクロで捉えれば「安くて便利」に価値を置く日本経済は低賃金・長時間労働に支えられていて、その構造こそ国力衰退の原因ではないかと疑いつつ,問題は“穴だらけの法律と運用”にあると見て,労基関連法の瑕疵を本書に指摘している。例えば,「固定残業代」は基本給の一部を切り取って残業代と言い換える「インチキ」だと批判する。また,店舗オーナーの死亡率と本部利益率の高さに着目し,「コンビニ業界は現代の小作農」とも言い当てる。そもそも「残業代」とは過労死に至るような長時間労働に対する抑止機能が主旨であり,カネの問題ではなく命の問題なのだと力説。「36協定」「みなし○○」「管理監督者」「変形労働時間」のいずれの人事制度も誤解がまかり通っていると危惧する。最終章では状況を逆回転させる政策を26項目にわたって提案し,「ホワイト企業だけが生き残れる環境整備」を希求している。

●著者:明石順平  ●発行:KADOKAWA/2019年12月10日
●体裁:新書版/287頁  ●定価:860円(税別)

イマドキ部下のトリセツ

 工作機械メーカー「営業三課・浅野課長(32)」を主人公に見立て,組織運営のノウハウを物語形式で解説した1冊。書名の「イマドキ」とは“最近の若者”に限らず,ゆとり世代,ロスジェネ世代,バブル世代,定年後再雇用の60代社員,ワーク・ライフ・バランス事情から契約社員で働く元エリート女子などを含めた多様な部下たちを総称している。課長が無策でいると,若手は言われたことしかせず,バブル世代は先輩面して自己流の仕事を改めず,再雇用社員は激減した給与相当しか働く気はないと開き直るなど,組織はめちゃくちゃになる。そこで,著者が提案しているのが,「評価制度」「コーチング」「叱り方」「ほめ方」「企業通貨(褒めポイント)」といったマネジメントに役立ついくつかの“武器”だ。なかでも「キャリア」はどの世代にも効果のある魔法の言葉だと注目し,キャリアコーチングの展開法にも踏み込んでいる。個々の適性を把握し、パフォーマンスを最大化していく“野村再生工場”を参考にするなど,着眼点も冴えていて面白い。

●著者:麻野 進 ●発行:ぱる出版/2019年12月13日
●体裁:四六版/224頁  ●定価:1,400円(税別)

日本人の給料はなぜこんなに安いのか

 コストとリターンの専門家が「給与」「年金」「消費税と買物」「住宅購入」の4項目を対象に“経済学”でレクチャーしてくれる1冊。とりわけ書名に象徴される「給料」の考察は秀逸で,複雑にして漠然としていた命題が“あ,そういうことか”と氷解する。企業の利益率は右肩上がりだが,給料は下がり続けている理由について,「日本は製造業で大きくなった国だから」と解く。低コスト・高品質で世界の信頼を得てきた歴史を負うとすれば,賃金は高いか安いかは自明であった。また,解雇リスクを上乗せする海外と,長期雇用リスクを抑え込む日本とで給料に差があることも,マクロのコスト・リターンで考えれば納得がいく。続く「年金」の章では,払い損はあるのか,あるいは,いつからもらうのがいいか(3年遅くvs.3年速く)をシミュレーションし,「老後2,000万円不足問題」にも一定の解を示し得ている。原価企画コンサルティングを手がける著者ゆえか,例外や細部には囚われず“損得の本質”をばっさり斬り込んでいて,その手口は鮮やかだ。

●著者:坂口孝則  ●発行:SBクリエイティブ/2019年12月15日
●体裁:新書版/192頁  ●定価:830円(税別)

定年消滅時代をどう生きるか

 2020年には「70歳までの継続雇用」を盛り込んだ高年齢者雇用安定法の改正案が提出されるだろうと著者は予想する。やがて努力義務が義務に変わり,さらに基準年齢が切り上がっていくと,事実上「定年」は消滅し,生涯現役が普通の社会になるとみている。一方で会社の寿命が短期化している事情を考えれば,50年の会社員生活で2回の転職(3つの職場経験)は当たり前になると語り,勤労者自らが15〜20年単位でキャリアを組み直していく必要性を訴えている。ただ,そうした状況を悲観しているわけでは全くない。ITが進化した今は3年で一人前のスキルは身につくとの前提で,3回分野を変えて10人に1人の専門家になれば,かけ算の組み合わせで,累計9年で1,000人に1人の希少人材になるとはじき出す。健康寿命を延ばし,人生100年時代を豊かに生きる鍵の1つに「学び直し」を挙げ,ITが進化しても思考力(読解力・論理力・直感力・感性)は代替できない構造を示しながら,例えばスマホから離れ五感を鍛える時間・読書の習慣を持とうと提案している。

●著者:中原圭介  ●発行:講談社/2019年12月20日
●体裁:新書版/231頁  ●定価:860円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki