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書評 2020.02

職場の「空気」が結果を決める

 320万人・840万件のクチコミデータから職場環境を数値化する試みを経て,「職場の空気」を科学的に扱った興味深い1冊だ。平成の30年間で時価総額を伸ばした会社と減らした会社を比較し,「風通しの良さ」「20代の成長環境」「人事評価の適正感」の3点に有意差が認められると分析。また,給料が低くても士気が高い会社の特徴でも「風通しの良さ」「相互尊重」「20代の成長環境」が挙げられると結果を報告している。ただ,空気を構成する要素のうち「法令順守」等はすでに多くの従業員が満足していて,今後改善を深めても状況は変わらず,一方「長期人材育成」は,従業員の期待値が高すぎ,どんな手を打っても満足しないだろうと割り切る。そこで,改善効果の大きい対象として改めて「風通しの良さ」に注目し,Openness=開放性(@経営開放性・A情報開放性・B自己開示性)をいかに向上させていくかを考察する。硬直的と批判されがちな大企業でも3年あれば空気は変えられると述べ,具体的な改善アクションに踏み込んでいる。

●著者:北野唯我  ●発行:ダイヤモンド社/2019年11月27日
●体裁:四六版/256頁  ●定価:1,500円(税別)

科学的な適職

 サイエンスライターの著者は,従来より個人的体験や嗜好で語られがちなキャリア論を廃し,心理学の知見を活かして“自分だけの適職”を見つけるための方法論を本書に綴っている。まず,適職を「(自分の)幸福が最大化される仕事」と定義。そのうえで,@仕事選びの7つの大罪(好きを仕事に,給料の多い仕事を,楽な仕事を,性格テストで,適性にあった…等),A幸福度を決める7つの徳目(自由,達成,明確,仲間,貢献…等),B幸福を破壊する8つの悪(長時間労働,雇用の不安定,コントロール権のなさ…等)という3つの物差しを示し,メリット・デメリットの整理を経て,候補企業(仕事)をマトリクスで絞り込んでいく手法を提案している。また,転職以前の段階で抱えがちな“自分はこのままでいいのだろうか”という迷いに対してはジョブクラフティングによる捉え直しを介した仕事観形成のヒントを提供する。人間の脳は間違えるという前提で,職業生活を多角的に切り分けていくアプローチは斬新であり,面白く読めそうだ。

●著者:鈴木 祐 ●発行:クロスメディア・パブリッシング/2019年12月21日
●体裁:四六版/288頁  ●定価:1,480円(税別)

フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか

 国連「幸福度ランキング」2年連続1位の国フィンランドの人々の働き方・休み方・学び方・生き方の事情を大使館に勤務する著者が明かす。書名の通り,午後4時を過ぎるとオフィスから人がいなくなるのは,フレックスを利用して朝8時から働く人が多いからだという。法制面では11時間のインターバル,週1回35時間の休憩,勤務時間内のコーヒータイムも企業には義務づけられている。有休消化率はほぼ100%,夏休みには皆が1ヵ月のバカンスを満喫,父親の8割が育休を取得する労働者保護と権利意識が進んだ社会の一面が語られている。ただ,「休んでばかり」ではなく「責任をもって仕事をする」「ガッツと忍耐でやり遂げる」価値観も健在で,仕事も休みも勉強も家事もバランスよく頑張る文化が背景にあるとされる。組織に階層はあっても関係はフラットで,役職・立場ではなく,倫理的判断・協力的行動で人物が評価される公平感の高い文化,貧困率は低く,1人あたりGDPは日本の1.25倍という生産性を維持しているその秘訣が,少しずつ理解できる。

●著者:堀内都喜子  ●発行:ポプラ社/2020年1月8日
●体裁:新書版/231頁  ●定価:860円(税別)

企業研究者のための人生設計ガイド

 細分化された専門領域に従事されているゆえか,企業内理系研究者のキャリアが一般に語られる機会は多くない。そこで当事者のリアルを公開しようとの意図から本書は企画されたという。民間企業への理系新卒入社では学士卒2割・修士卒5割という現状にあって,まず大学院へ進むべきか,さらに博士課程はどうするかを考察。その先の職業人生では,大学と企業での立場の違いを切り分けたうえで,研究者に共通して求められるスキルを整理している。一定の経験を積んだ中堅社員の進路では,@管理職への昇進,A部門横断型チームリーダー,B研究の最前線(継続あるいは他テーマ),C研究以外のポジションの4つの典型例を示し,さらに第5の選択肢(=専門を活かした転職)にも触れる。後半では,キャリアモデルの1つとして著者自身の半生を綴り,米国での充実,一転して研究所の閉鎖,英国での活躍,日本への帰国など,波乱の物語も楽しめる。最終章では2名の活躍する女性研究者とのインタビューを通して,若手研究者へのメッセージを盛り込んでいる。

●著者:鎌谷朝之  ●発行:講談社/2020年1月20日
●体裁:新書版/219頁  ●定価:1,000円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki