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書評 2020.05

内向型人間だからうまくいく

 従来の自己啓発系ビジネス書は外向型の人材像をスタンダードに想定しているため,内向型の人は萎縮しがちではなかったかと“内向型プロデューサー”を自認する著者は問いかける。対人スキルに優れたセールスマンが主役のビジネスモデルは転換期を迎え,コミュニケーションの構造が変質するこれからは,内向型の時代が到来するとして,その特性を有利に活かす方法を本書にレクチャーしている。分析の過程ではユングの心理学にまでさかのぼり,また,生育過程の研究を引き合いに,生後数ヵ月ですでに内向型の特徴は現れると解説。@脳の神経回路が長い,Aドーパミン受容性が高い,B副交感神経が優位,という3点に整理したうえで,これらは生来の特性なので克服する必要などなく,有効活用すべき利点だと述べる。例として,量より質の人間関係を築けたり,社会的意義や仕事を担う意味を考えたり,反省能力が高く,物事にストイックに打ち込み独創的なアウトプットを出せたりする傾向を指摘している。内向型人間には何とも心強い1冊。

●著者:カミノユウキ  ●発行:祥伝社/2020年2月10日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:840円(税別)

ストライキ2.0

 一貫してブラック企業対策に取り組んできた著者は,法的規制に実効性を持たせるための手段として「ストライキ」を訴求。かつての労組主導の賃上げ闘争とは次元の異なる新しい動きを捉え,21世紀型の「ストライキ2.0」と名付けて,その動向を本書に考察している。旧型との違いは,まず,サービス業・流通業で顕著な点だと指摘する。駅構内売店,牛丼店,図書館,介護施設,保育士,サービスエリア,コンビニ等の事例を追いつつ,@職業的,A社会的,B階層的,という3つの要素による分析を試みる。さらに,社会インフラを担う人たち(男性正社員ではない現場の方々)が訴える不条理への抗議に呼応し,SNS上で一般人の共感・支持が広く盛り上がる現象に着目し,「労働者と消費者の連帯が21世紀型ストライキ成功のカギだ」と読み説いている。単に「賃金を上げろ」ではなく「自律的に働きたい」「環境問題を改善したい」といった要求項目の質的変化も視野に入れ,世界とパラレルで始まっている労働運動の進化形を注視している。

●著者:今野晴貴 ●発行:集英社/2020年3月22日
●体裁:新書版/255頁  ●定価:860円(税別)

モチベーション下げマンとの戦い方

 「無理することないよ」「どうせ無駄だから」「適当にやろう」と人のやる気を下げる言動・態度がどの職場にも見られるかもしれない。数々の職場を知る組織コンサルタントの著者はそうした負の働きかけをする人々を「モチベーション下げマン」(MSM)と名付け,対処法を本書に綴っている。MSMの言動は善意のアドバイスや承認の表現だったりするので,相手の真意を察してうまくかわすのも1つの方法だと提案する。例えば,「自分は鈍感なので」「図星です」とあえてその場は相手を満足させてしまう対応も有効だとする。また,まとまりかけた会議を,そもそも論からひっくり返してくるような人には,反論ではなく,合理的にやり過ごすのが得策だとして,ファシリテーションのテクニックを紹介している。加えて,MSMは自分のなかにも存在するという前提で「負けグセ」「先延ばしグセ」から抜け出すコツも解説。モチベーションの源泉に嫉妬心や誰かのために頑張るエネルギーを認め,上手にコントロールする方法を伝授してくれている。

●著者:西野一輝  ●発行:朝日新聞出版/2020年3月30日
●体裁:新書版/227頁  ●定価:790円(税別)

女性リーダーが生まれるとき

 日本企業の女性役員10人の取材を通じて「一皮むけた経験」の解明に挑む1冊。クオーター制を導入するドイツの事情,および米国シリコンバレーの女性エグゼクティブたちへのインタビューも併載して活躍支援のヒントを探っている。登場する10人のキャリアはいずれも起伏に富んでいる。部下全員が年上の男性だったり,部長職を解任されたり,工場閉鎖の矢面に立ったりと,図解で可視化された軌跡は“山あり谷あり”そのもの。どこかの段階で「コンフォートゾーン」(居心地のいいポジション)を抜け出す決断をしている点も共通していて興味深い。女性役員を増やす取り組みはすべての働く女性の環境整備につながると確信する著者は,事例の考察から「ひと皮むける」ためのポイントを5つに整理(@初期段階で仕事を任せてくれる上司,A海外赴任・転勤もいとわない経験,B修羅場体験,C目をかけ引き上げてくれるメンター・スポンサーの存在,Dガラスの壁も天井もない社風)。加えて,未来に向けたポジティブアクションの指針を提案している。

●著者:野村浩子  ●発行:光文社/2020年3月30日
●体裁:新書版/325頁  ●定価:900円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki