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書評 2020.04

御社の新規事業はなぜ失敗するのか?

 数々のスタートアップを支援してきた著者は,潤沢なリソースに恵まれた大企業で新規事業がうまくいかない理由を“組織のあり方”に見出している。日々「果実を収穫する」コアビジネスと,イノベーションを生み出す「問題児」の運用が同じはずはないと指摘し,独自の概念“3階建て組織”の構築を提案している。すなわち,1階は損益にこだわるコアビジネスの展開(10を100に)。2階はすでにあるマーケットでカイゼンを極める持続的イノベーションの推進(1を10に)。3階は,未来のマーケットを実験する破壊的イノベーションを担う場(0から1を生み出す)と位置づける。また,成功をもたらすためには3階部分を統括しながら全社目線で1階・2階とも連携を図る推進担当者「CINO(Chief Innovation Officer)」の存在が重要だと強調。「3階建てのヨコ串」が機能する先進企業と「1階建てのタコツボ」で衰退する組織との違いを明らかにしている。4つのフェーズに切り分け,8つのステップで科学的に進めるイノベーション組織論は要注目だ。

●著者:田所雅之  ●発行:光文社/2020年2月29日
●体裁:新書版/273頁  ●定価:840円(税別)

マネジメントスキル実践講座

 今どきの新任管理者のバイブルとなりそうな良質な教科書の登場だ。管理者の立場がプレイヤー時代と決定的に違うのは「他者を通じて業績を上げる役割だ」と再確認し,自分の得意なことでも,あえて他者に任せる練習を求める(「自分でやったほうが早い」という悪魔の声を振り切れ,と表現)。マネジメントにも「型」があり「守・破・離」のステップを踏むのが王道だと語り,古今東西の先人たちの名言を5つの原理原則にマッピングして示す。また,日常のマネジメント行動(ジョブ・アサインメント)を4段階・計32項目のスキルに分解するなど,オリジナリティあふれる論理的な解説も圧巻だ。従来の管理型スタイルが通用しない環境の変化を捉えて,今後のマネジャーは,相手に関心を持ち支援していく「配慮型」になると見通し,ダイバーシティー&インクルージョンにも一定のページを割いてる。プレイングとマネジメントのウェイト配分,リーダーシップとマネジメントの違いなど,深いテーマがやさしい記述で貫かれ,好奇心を刺激される。

●著者:大久保幸夫 ●発行:経団連出版/2020年3月1日
●体裁:四六版/173頁  ●定価:1,600円(税別)

ミッシングワーカーの衝撃

 総務省から発表される「失業率」は,求職中なのに就職できていない人が対象であって,“働くことを諦めてしまった人”はカウントされない。本書は,その統計に表れない「ミッシング・ワーカー」の存在に着目し,特に40代・50代の実態を取材ベースで探っている。登場する取材対象者はいずれも親の介護をきっかけに離職し,介護が終わっても社会復帰の機会を失い,自身の生活を危機にさらしているケースがほとんどだ。自宅介護の様子,節約生活の実情は相当に痛ましく,セルフ・ネグレクトに陥り「ゴミ屋敷」に閉じこもる姿までも生々しくレポートしている。1997年から20年間,40代・50代の人口は減少しているのに,ミッシング・ワーカーは増加傾向にあるとし,その数を103万人と推定。「働き盛り」「大黒柱」を担う層ゆえ,福祉や社会保障のセイフティーネットの対象からは漏れている危うさも描かれている。個々人の生き方の追跡に併行して,孤立した状態から労働市場に戻ってこられる仕組み作りが急務ではないかと切迫した課題を問いかけている。

●著者:NHKスペシャル取材班  ●発行:NHK出版/2020年3月10日
●体裁:新書版/217頁  ●定価:800円(税別)

辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて,どうする?

 MBAを保持する医師として「組織の病巣を見抜くプロ」を自認する著者は,流行の人事・福利厚生制度を導入しようとする経営・人事の判断に待ったをかける。3万人以上の「社員の声」,年間1,000組織を超える従業員意識調査の「定量データ分析」,コンサルティング先での「組織管理者の声」から得られた知見に基づき,打ち手は「マイナス感情」の切除にあると導く。すなわち,あきらめ,疲労,ねたみ,怒り,不安,といった負の感情は長期にダメージが残り,やがて組織に伝染していくリスクが高いと指摘。「マイナス感情」の正体をロジカルに分類整理したうえで典型別にケースを挙げて必要な対策を解説している。また,優秀な人材の離職を防ぐのは当然として,それ以上に深刻なのは不満を抱えたまま居続ける「消極的定着」の蔓延だと警戒する。WLBを表層的に捉えた「皆の幸福度を高める政策」は,ときに誰のためにもならない結果に陥りがちであり,「誰に・何を・どのように」と絞り込んだターゲティングこそ有効だと訴えている。

●著者:上村紀夫  ●発行:クロスメディア・パブリッシング/2020年3月21日
●体裁:四六版/272頁  ●定価:1,580円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki