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書評 2020.09

「超」働き方改革

 本書に提案されているマネジメント論は,結束を徹底して組織一体化を図るのとは正反対に「分ける」ことで強みを発揮していく手法だ。分ける対象は,@制度的分化(仕事),A物理的分化(職場),B時間的分化(キャリア),C認知的分化(担当者明記)という4方向(4次元)。@仕事の分け方では,職務型・専門型に加えて自営型を考察し,今日的(近未来的)着目点を盛り込んでいる。また,A職場の分け方では,大部屋と個室の特徴を整理し,テレワーク・在宅勤務の可能性に踏み込む(同時に「自由と自己責任」の厳しさを指摘)。さらに,Bキャリアの分け方では,独立支援(のれん分け)やプロジェクト参加を例に挙げ,長期雇用とは真逆の短期清算型人事でエンゲージメントが高まる仕組みを解説している。C担当者明記では,企画発案者の可視化や会議での発言者の記録などの具体策を紹介し,第三者の目にさらして名誉で働く機能に注目している。「個を埋没させる集団」より「1人ひとりが強いチーム」が勝る時代の組織運営のヒントが満載だ。

●著者:太田 肇  ●発行:筑摩書房/2020年7月10日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:780円(税別)

中流崩壊

 コロナ禍を契機に改めて「中流」が総崩れにある現実を資料ベースで考察した1冊。「1億総中流」の起源を巡っては1970年の国民生活白書にさかのぼりつつ,そもそも当時から“意識”の話であって,収入・地位・財産の実態は中産階級の充足に至っていないと指摘する。その後1980年代まで「総中流」は常識と見なされていたが,やはり実相は虚構であり,むしろ格差はその頃から拡大が始まったと突き止めている。とりわけ1970年代の「総中流」から今日の「格差社会」までを5期に区切り,雑誌の特集や書籍のタイトルで振り返る記述は学術を超えて楽しめる。また,現在の「中流」を,@新中間階級(ホワイトカラー・専門職),A旧中間階級(独立・自営)に分けたうえで独身・夫婦・退職後の所属階級を基準に11通りに分類・整理する試みは圧巻だ。最終章では「中流の再生」を模索。その実現にあたっては,中流保守(貧困自己責任論者)から中流リベラル(所得再配分支持者)までを緩やかに連携させる政治的立場を超えた検討が問われるとしている。

●著者:橋本健二 ●発行:朝日新聞出版/2020年7月30日
●体裁:新書版/291頁  ●定価:850円(税別)

新・仕事力

 政府の「働き方改革」はいずれも矛盾だらけの愚策だと論調は厳しい。例えば「同一労働同一賃金」では,世界経済に取り込まれていく過程でどんどん安くなるだけであり,本来は「同一生産性(成果)同一賃金」であるべきだと主張する。また,定型業務はアウトソーシングの対象なので残業は発生せず,非定型業務で問われるのは成果であり残業の概念は成り立たないとの理由から,上限時間規制や年収制限は“余計なお世話だ”と斬り捨てる。これから注目される新しい働き方ではテレワークやギグワーカーを挙げ,ネットにつながり成果に貢献できるならどこで何をしていてもかまわず,一方で貢献ができない人には居場所がなくなるだろうと警告する。マイナス成長の時代に「人並みでいい」と考えたらその時点で負けであり,個人は国と共に沈む必要は全くなく,むしろコロナ禍を機に何をしてでも食べていける力を研究・実験・実証すべきだと力説。皆が等しく貧しくなっていく趨勢に抗って,個々人が世界で戦う力を身につけよと読者を鼓舞している。

●著者:大前研一  ●発行:小学館/2020年8月4日
●体裁:新書版/239頁  ●定価:820円(税別)

面白いことは上司に黙ってやれ

 東芝からソニーを経て独立。ロボット開発の最前線を担う著者は,エンジニア兼経営者の半生から確信を得たイノベーションの哲学を本書に綴っている。管理系業務への疑問から退社・独立し,社長を名乗ってみたものの,肝心の仕事がないと気づいた起業時の心境もオープンに語り,「ロボットでビジネスをやる」と決めて以降の20年の軌跡を等身大で記述。実際,事前準備を考えすぎずに「とりあえずやってみる」チャレンジ精神で興味に任せて動いてるうちに優れたパートナーたちに出会い,内外の投資家・ベンチャーキャピタルにも恵まれてきた。対比して,失敗しない代わりに成功もしないこの20年の日本企業の選択を憂い,肝心な情報や富をGAFAに押さえられてしまった彼我の差を「ビジネス・スピリット」の有無に見出している。若手読者には「自分株式会社の社長さん」の意識を提案し,イノベーティブに働くための7つのポイントをアドバイスして締めくくっている。ちなみに,モーション・フィギア「高坂ここな」の開発秘話も読みどころだ。

●著者:春日知昭  ●発行:光文社/2020年8月30日
●体裁:新書版/237頁  ●定価:800円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki