書評 2020.10
今の評価制度に疑問を感じたら読む本
自社の評価制度に疑問を抱く瞬間こそ,人事担当者の良心の芽生えかもしれない。制度設計に先立って,ビジネスと人事制度の主従がよもや逆になっていないかと著者は問いかける。すなわち,評価業務はビジネス価値を生まないので,ムダを排し必要な要素だけを残すよう,そして価値ある施策(人材育成・適材適所)を打ち出すよう捉え直しを推奨する。@方針策定,A目標管理,B面談,C評価確定,D評価者研修の5項目につき,本当に業績に寄与し,納得感を高めているのか検証し,ムダ取りの進め方をガイド。完全な公平性・納得性はもはや“妄想”だとの確信を得て,シンプルな人事制度の設計法を公開している。より具体的には,役割定義や人件費コントロールを整理したうえで,評価では「重点課題」と「成長課題」に着目し,育成にウェイトを置いた仕組みを提案する。後半では,課題・疑問を乗り越えた4社,およびティール型組織を機能させている1社の事例を詳述している。ちなみに評価シートのモデルはダウンロードで入手可能だとしている。
●著者:島森俊央 ●発行:日本生産性本部/2020年8月25日
●体裁:四六版/227頁 ●定価:2,000円(税別)
エンゲージメントを高める場のつくり方
社内イベントの企画運営を手掛ける著者は,コロナ禍でも適切なタイミングで「場」を設けることでエンゲージメントが高まる有効性を説き,オンラインを含めた推進ノウハウを本書に展開している。企業の成長ステージ別に陥りがちなモチベーションの課題を見極め,イベント施策(キックオフ,ワークショップ,表彰,研修等)を仕掛けていくセオリーを公開。対象者の態度変容手段では脳科学の知見を借りた応用例も解説している。また,オンラインイベントでは,リアルと異なる4つの特徴(公平性・迅速性・拡張性・自己同一性)を挙げ,肯定的な捉え方を示す。イベントを勢いやセンスに任せるのではなく,科学的に実行していく手がかりに加え,“賑やかし”ではなく変化の実を得るための手足の動かし方につき,深いレイヤーからの理解を助けてくれる。ファシリテーター6つの機能(聴く,観る,問う,つなぐ,踏み込む,考える),8社のケーススタディ,15に及ぶ“鉄板ツール”(リアル・オンライン含む)など資料性にも優れた仕上がりだ。
●著者:広江朋紀 ●発行:同文舘出版/2020年9月9日
●体裁:四六版/272頁 ●定価:1,700円(税別)
1on1の対話レッスン
上司と部下の面談「1on1」が普及する一方で,形骸化や空回りの失敗例も見聞きする現実を受け,課題の多くは対話のスキル不足にあると著者は見ている。そこで本書では,20年以上のコーチングのプロの知見から,対話を有効に進めるコツを20のレッスン項目に落とし込み,それぞれ解説とエクササイズの進め方を整理している。上司・部下間の対話の基本となる「問いかけ」では詰問や誘導尋問になってはうまくいかず,「視点を変えなさい」と命令になっても,相手は(理解はするが)行動を変えようがないと指摘し,望ましい動きがとれるよう,オープンクエスチョンをベースにした「問い」を発して誘う訓練法を紹介。また,フィードバックでは,説教や自慢話にならない伝え方の工夫,適切な間を挟み,体験や感情を排しすぎず,結論のまとめを急がないっといったコツを公開している。さらに,部下の側にも“上司と対話する意識とスキル”を磨いてもらい,1on1の狙いや仕組みを両者で共有してはどうかと提案していて,その着眼は画期的だ。
●著者:本間達哉 ●発行:経団連出版/2020年9月10日
●体裁:四六版/160頁 ●定価:1,400円(税別)
あなたの職場の繊細くんと残念な上司
かつては企業人,現在は大学教員として,会社組織と若者の事情をよく知る著者は,世代間に生じるギャップを本書に考察している。まず,若手社員がひ弱で繊細に見えるのには理由があるとして,@先行きに対する不安心理, ASNSで加速する同調圧力, BDoingからBeingへの価値観の変化,という3つの背景を指摘。若者には現状維持が最もリスクの低い選択であり,Yes・Noを言わず,海外勤務や昇進を嫌がり,飲み会に戸惑い,インセンティブに釣られない態度には訳があると説く。一方,中高年管理職には,若者の特徴を知ったうえでの接し方に工夫を求め,7つのポイント「か:感情的にならない」「り:理由をきちんと説明する」「て:手短かに済ませる」「き:キャラクターには触れない」「た:他人と比較しない」「ね:根に持たない」「こ:個別に伝える」を詳述している。職場にありがちなシーンや体験談を交えた解説は読みやすさ抜群。いち早く要点を知りたい方には,最終章にまとめられた「繊細な若手社員の力を引き出す6 か条」の一読もお勧め。
●著者:渡部 卓 ●発行:青春出版社/2020年9月15日
●体裁:新書版/191頁 ●定価:900円(税別)
HRM Magazine.
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