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書評 2020.11

過労死しない働き方

 ジュニア新書ながら,ワークルール(労働法)の重要性を訴求する本書の記述は,広く一般の勤労者にも刺さるだろう。初めに5人の若者の過労自殺をリアルに追い,広告・IT・宇宙工学といった先進分野の職場でも,組織的支援のないまま最前線で高いストレスを蓄積させて自ら命を落とす悲劇が起こりうる現実を紹介している。続いて,5人の中高年勤労者の過労死を詳述し,突然死に至った長時間労働と高ストレスの因果関係を解説している。各背景に,業務の集中,人員不足,トラブル対応,過大な業績期待等を疑い,常にギリギリの状態で業務を回している現場では,1人欠員が出ただけで残された人が過重労働で潰れる構造を分析している。経営のあり方では,タイムカードを改ざんするような職場は遵法精神が麻痺し,粉飾や横領など会計不正へのハードルが下がるとも警告している。過労自殺した女性の母による痛々しい「啓発授業遺族メッセージ」,高校生たちが話し合い『鬼十則』の反省のうえに作り上げた『天使十則』なる資料も必見だ。

●著者:川人 博  ●発行:岩波書店/2020年9月18日
●体裁:新書版/177頁  ●定価:800円(税別)

いまはそれアウトです!

 4つのコラムを挟みながら6章・計86の「やってしまいがちなこと」を挙げ,法的リスクを指摘するとともに,どこがなぜアウトなのかを解説したコンプライアンスガイドの仕上がりだ。冗談のつもりがセクハラで慰謝料請求,叱責のつもりがパワハラで暴行罪,といったリスク認識は相当浸透してきていると思われるが,では,夜食休憩を含めて残業代を請求したら不正受給で詐欺罪,能力・成果ではなく好き嫌いで部下の考課をつけたら裁量を超えているとして懲戒対象……といったケースはどうだろう。プライベートの問題とされがちな不倫も,会社の社会的信用に悪影響を及ぼしたと解釈されれば懲戒の対象になるという。新人に宴会芸を(強制ではなく)期待しても,内輪で賭け麻雀をやっても,酔って道路で寝込んでも,書名の通りだと著者は弁護士の立場で警告している。いずれのトピックも,左にイラスト,右に解説という見開きレイアウトで構成され,お手軽に読める配慮がありがたい。研修の機会に参加者たちに1冊ずつ手渡すような活用法もありだ。

●著者:菊間千乃 ●発行:アスコム/2020年10月2日
●体裁:四六版/208頁  ●定価:1,400円(税別)

さよならオフィス

 新型コロナを契機とするオフィス解約ラッシュの動向を取材し,経営者たちの生の声を拾いながら,オフィスの存在意義を問う1冊。登記場所以外にオフィスはいらない(全員在宅勤務)と決断した会社もあれば,週1回の「オフィスデー」で顔合わせができればいいと面積縮小に動いた会社,ベストな姿を模索しつつ,集中すべきはオフィス問題ではなく事業そのものだったと原点回帰し,解約を撤回した会社など,事情は様々で興味深い。究極のスタイルではVRゴーグル着用による仮想オフィスや旅をしながらリモートワークを続ける個人も登場する。大手企業が打ち出した「面積半減」「半分在宅」の方針を手がかりに,ジョブ型雇用の可能性にも触れ,働き方の自由と責任の関係を再考。最終章では改めて「オフィスは必要か」との命題を掲げ,感染対策面での「安全」と働き方の「自由」に加え,セレンディピティ(偶察力)=予想外の発見ができる場,同時性コミュニケーションの場(空気共有)の効果も認められるのではないかと,考察を深めている。

●著者:島津 翔  ●発行:日経BP/2020年10月8日
●体裁:新書版/213頁  ●定価:900円(税別)

失敗しない定年延長

 60歳再雇用社員の8割は残念なシニアだと確信する著者は,迷惑系・勘違い系・無力系の3系統,さらに各3細分を加えて,計9タイプにダメぶりを類型化して見せる。ただ,専ら本人たちに責があるともいえず,今までの日本の雇用システム(会社従属型雇用)に原因があるとみて,問題点を7つの要素に整理し,4つの弊害を指摘している。とりわけ,「職務価値と乖離した報酬水準」と「会社依存のキャリア形成」に構造的な病理を認め,抜本的解決策(解雇要件の緩和など)が難しいのなら,せめて定年(60歳)を機に職務主義を原則とする人事報酬制度へ切り替えてはどうかと「あるべき定年延長」論を展開。職務と個々の契約にすることで70歳でも80歳でも通用する仕組みを狙うと同時に,運用ではプレ・シニア(40代以降)へのキャリア研修も必須だと位置づけている。論理的で大胆な提案を核としつつ,架空人物(1958年生まれ・大島耕作さん)の半生を日本経済の浮沈に重ねて描いたり,氷河期世代の怨嗟感情をのぞかせたりと,面白さもにじむ論考だ。

●著者:石黒太郎  ●発行:光文社/2020年10月30日
●体裁:新書版/231頁  ●定価:800円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki