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書評 2020.12

会社には行かない

 世界16ヵ国・約700名のメンバーがリモートで働くキャスター社の“中の人”が人事を語った1冊。リモートワークは特殊ではなく,単に働く場所の選択にすぎないと割り切り,「約束を守り,当たり前のことが当たり前にできる人材」こそが優秀だとの認識を示す。就業時間はログインとログアウトで管理する。メンバーには,コミュニケーションを取りながらチームの成果を最大化していく役割を期待し,チャット上での雑談を推奨して情報の顕在化を意識したマネジメントを進めている。結果的に雇用はジョブ型に行き着き,さらに「週3日正社員」「業務委託型契約事業部長」など雇用の多様化という点でも実践が先行している。“会社は個人の邪魔をしない”との信念から一体感強化の施策を疑い,居住地や年齢で給料が変わるのはおかしい,満員電車は不毛,仕事の価値と成果と収入は必ずしも比例しないといった真実をみつけて“週5日出勤・正社員中心”の既成概念を踏み越えていく。最終的には競争とは違う次元で参加できる社会を希求している様子だ。

●著者:石倉秀明  ●発行:CCCメディアハウス/2020年10月2日
●体裁:四六版/199頁  ●定価:1,400円(税別)

図解 オンライン研修入門

 オンライン研修の実施1,000回以上・受講者2万人以上の実績を持つ著者グループが,運営側のノウハウをまとめた1冊。講師編/受講者・事務局編にターゲットを分け,さらに3社の事例を紹介して,効果的な研修の展開法を詳述している。手足を動かす実務に先立ち,研修の目的に立ち返って全体像を俯瞰し,オンラインに向く研修・向かない研修の考察を示したうえで,Eラーニングやウェビナーとの相違点を機能と効果の面から整理している。オンライン研修では,グループワーク時に受講者は周囲の空気に左右されずゴールに集中でき,アウトプット志向が高まるメリットがあると述べ,オンラインならではの利点を積極的に取り入れた設計運用をアドバイスしている。また,講師のファシリテーションスキルでは,自己開示の有効性や双方向コミュニケーションの活かし方に踏み込み,個別具体的な悩みにはQ&Aで解決策をガイドしている。これから標準化が進むであろうオンライン研修の設計にあたって,本書は参考余地の大きいバイブルの1つになるだろう。

●著者:HRインスティチュート/編著者:三坂 健 ●発行:ディスカヴァー・トゥエンティーワン/2020年10月25日
●体裁:四六版/311頁  ●定価:1,600円(税別)

ダイバーシティ・マネジメント大全

 コロナショックに伴いテレワークが進むタイミングを捉え,著者は「分散・多様性」のメリットに注目する。社内で社員を一括管理する大部屋マネジメントが機能しなくなった一方,通勤が不要になったがゆえに,ダイバーシティは拡大すると期待を寄せる。属性に縛られない多様性をダイバーシティの「ver.1」とするなら,場所と時間からの解放をもたらした現在は「ver.2」に相当すると定義。多様な人材がいればビジネスメリットが生まれると安易に認識しているわけではなく,ダイバーシティの成功と失敗を分ける要件を洗い出したうえで,「成果」へのこだわりを共通のカギに挙げている。その過程では,成果を規定できない仕事はそもそも不要であり,成果の出ていないプロセス評価も無意味だとあえて割り切る。VUCAの時代に求められるイノベーションは異質の組み合わせによる「新結合」にあると述べ,今までマジョリティであった出社する正社員の同質性に限界を指摘し,マイノリティグループから可能性を引き出すマネジメントのあり方を提案している。

●著者:西村直哉  ●発行:クロスメディア・パブリッシング/2020年11月1日
●体裁:四六版/256頁  ●定価:1,480円(税別)

給与クライシス

 テレワークの拡大は「脱メンバーシップ型」を加速させると確信する著者は,今起きている変化を,@働き方,Aキャリア,B給与,に分けて深掘りし,改めて「給料は何に対して支払われるのか」と原点を問う。各自がそれぞれの場所・時間で働く状況では“みんながそろってがんばる”価値が物理的に成立しない。従って個人の責任・権限で求められる成果を短時間のうちに達成する働き方が期待され,その結果,生活費残業は消滅し,成長がなければ年功差も昇給もない処遇に行き着くと明かす。職場内OJTが機能しない構造にあって,能力を磨いていくには外部での学びが有効であり,新しいコミュニケーションを形成する場にもなるとメリットを示唆する一方,所属するだけ,顔を出すだけでは不足であり,価値をキャッシュに転換する行動選択をセットで求めている。果たして読者は今いる会社で働き続けるべきか? この命題に対しては,判断材料として従業員の側から管理職・役員の技能・知識・技量をチェックする15項目のシートを掲載していて,要注目だ。

●著者:平康慶浩  ●発行:日経BP/2020年11月9日
●体裁:新書版/227頁  ●定価:850円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki