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書評 2022.03

会社でうつにならないための7つの心の技術

 産業医「ドクターK」と人事部福祉保健担当「彩」さんとの掛け合い,それにメンタル不調を来した社員各氏の「独白」を交えて,うつを予防する“心の技術”が解説されている。「中核信念」「自動思考」という2つの専門用語から,思い込みにとらわれる心のメカニズムを解明し,思考の偏りがうつの原因になりうる構造と,そこから脱出するヒントを詳述している。さらに,基本編・実践編を経た応用編では,「偏った思考を見つけて修正するためのワークシート」を用いて,心のなかに「もう1人の自分」を登場させ,物事を多角的に見る方法を紹介。例えば,減点法の思考ではどれほど頑張ってもプラスにはならないが,加点法の発想をすれば自分に自信が持て仕事にもやる気が出てくる可能性や,思い込みによる他者への不信感を取り払って信頼を意識してみると人間関係も変化する作用を示唆している。また,薬や医師に頼るばかりではなく自分で治そうとする主体性も重要だと言い添え,身近な事例を挙げながら認知行動療法の実践をガイドしている。

●著者:くずまき たけじろう  ●発行:青春出版社
●発行日:2021年12月17日  ●体裁:四六版/208頁

偉人の年収

 洋の東西と時間軸を横断して歴史的著名人たちの金銭事情を暴露したウンチク満載の企画本だ。紀元前のカエサルの大借金から岩崎弥太郎の大葬儀に至るまで,政治家・文豪・音楽家・戦国武将・明治の元勲らの収入と金づかいをハイテンポな筆致で概観している。各時代・社会の労働価値と物価の関係は現代と異なると前置きしつつも,逸話ごとに今の貨幣価値に換算して金額をはじき出す解説は大胆で面白い。十分な資産と仕送りを得て全く働く必要のなかったダーウィンと,10代の頃からじり貧の教師生活を続けざるをえなかったファーブルとの比較など,階級格差もよく描かれている。転職を機に富裕層へのし上がっていく人,家族の事情で資産を失う人,成り上がり者として罵倒される人,一般に知られている偉業とは無関係な副業を持っていた人など,人生模様は改めてバリエーション豊かで驚かされる。ただ,様々な生き方を並べてみると,人の幸福感は収入とは別のところにあるようにも思え,「報酬とは何か」という哲学的な命題も考えさせられる。

●著者:堀江宏樹  ●発行:イースト・プレス
●発行日:2022年1月18日  ●体裁:新書版/240頁

テレワーク本質論

 早くからテレワークのコンサルティングを手がけてきた著者は,コロナ禍を経て普及期にさしかかった現在の状況を概観し,改めて具体的なアドバイスを本書に整理している。「課題に向き合い」「基本知識を得て」「正しい考え方で」「具体的に実践して」「ポストコロナ時代に備える」と順序立てて持論を展開。ポイントは,テレワークのための仕事の切り出しではなく,仕事そのもののオンライン化にあると述べている。すなわち,出社時のメイン業務のためのサブ業務をテレワークに回すのではなく,報連相を含む日頃の仕事の仕組みをオンライン化する工夫,あるいは「雑談ルーム」の新設ではなく,日常業務のなかに「雑談してもいい環境」を作り込んでいくマネジメントを求める。さらに,管理・評価・育成などで陥りがちな“間違ったテレワーク”を12パターン指摘したうえで,「テレワークを成功に導く心得十か条」をまとめている。責任と自律を課す自由ではなく,ルールに則った柔軟性に価値を置く現実的な働き方の提案であり,多くの企業が共感できるだろう。

●著者:田澤由利  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング
●発行日:2022年1月28日  ●体裁:新書版/208頁

「化ける人材」採用の成功戦略

 就活学生たちにはあまり知られていない中小企業(300人未満規模)のための採用戦略を指南する1冊。求人サイト・イベント・パンフレットといった個々の手法に改善を加えても,構造的人材難の現実に対しては解決策にならないと指摘する著者は,まず採用活動全体の見直しをロジカルに考察する。そのうえで「よい職場によい人材が集まる」という大原則を確認し,“自社にとって”将来活躍してくれる人材を絞り込む「採用ニッチ戦略」の進め方を解説している。大枠の要点を,@候補者集団形成,A情報提供,B選考,C入社動機形成,という4つのプロセスで整理。さらに,“刺さる採用コンセプト”の作り方や,ナビサイトの検索ワードの工夫(発見され・記憶され・比較される段階まで考え抜く),「伸びしろ」を見抜く選考のブラッシュアップ(どの能力を・どのタイミングで・どの方法によって)まで踏み込んで詳述している。また,20に及ぶ「成功事例」を載せ,ターゲットを狙い撃ちにする「採用ニッチ戦略」の具体的なアクションを公開している。

●著者:窪田 司  ●発行:スタンダーズ・プレス
●発行日:2022年2月10日  ●体裁:四六版/224頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki