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書評 2022.04

会社ではネガティブな人を活かしなさい

 主に海外の経済学と心理学の実験結果を参照しながら,「個人の幸福度と組織業績」の関係を学際的に考察した論考だ。従業員の幸福度が高ければ企業業績も好調だろうと自明に思われていた相関では,「必ずしも有意性を認めるほどでもない」と,何とももどかしい結論を導き出している。論点の1つは,従業員の満足度を上げるためのコストと,満足度が上がったことで達成される成果の証明の難しさだという。転じて,レジリエンスの発揮や試行錯誤を重ねて創造性を形にしていく根気強さは,現状に満足せず批判的に取り組むネガティブな感情が大きな力になっていると反証的に論じている。加えて,テレワークでは無愛想でも孤独に耐性のある人のほうが向き,心配性の管理者のほうがパフォーマンスは良好だとの例証も挙げ,“ポジティブ礼賛”の風潮を懐疑的に見る。学者の立場から論文の原典に当たり忠実に解釈するならば幸福度と業績の関係は「限定的な効果しか証明できない」と釘を刺し,「幸せ」を押し付けないマネジメントを提案している。

●著者:友原章典  ●発行:集英社
●発行日:2021年12月22日  ●体裁:新書版/239頁

厚労省

 新聞記者・論説委員として社会保障政策分野を長く担当してきた著者が厚労省という巨大組織の歴史と実像に迫る。他省庁と比較して特徴的なのは,まずその予算規模の大きさであった。年度予算は約33兆円で,国家予算の3割近くを扱っているという。専門職では,医師の資格を持つ医系技官,司法警察職員の権限を有する労働基準監督官と麻薬取締官の特異性を挙げる。また,国会答弁回数の多さも他省庁を圧倒し,本省職員約4,000人の半分近くが過重労働の状態にある内情も明かされている。官僚たちの守備範囲は主に厚生系と労働系に分けられ,前者は多岐にわたるステークホルダーの間を自ら説明して回るのに対し,後者は時間をかけて公労使の調整を進めるという働き方の違いも紹介されている。二転三転してもめた「年金制度改革」「高プロ制度」の内幕ほか,審議会・部会・分科会の運営,政権与党への根回しに至る政策決定プロセスの機微や,行政遂行手段(法令・政令・省令・施行規則・通知・事務連絡)の効力など興味深いトピックも満載だ。

●著者:鈴木 穣  ●発行:新潮社
●発行日:2022年2月20日  ●体裁:新書版/237頁

30代から地元で暮らす幸せのUターン転職

 子育て,住宅事情,災害リスク,経済環境の激変等を契機に30代でUターンを決断するケースが増えている。ただ,地元に求人ニーズがあるかも分からず,あっても条件が合わなかったり,家族の同意が得られなかったり,人間関係が難しかったりと,心配は尽きない。そこで,1,400人超の地方転職支援を成功させてきた転職エージェントでキャリアコンサルタントの著者は,成功するUターン転職の要点を本書に公開している。自己理解・企業選定から応募・面接までの一通りのステップ解説に加え,地方ならではの特殊性にも触れ,例えば,求人データベースの登録はゼロでも,「いい人材がいたらぜひ面接したい」と語る経営者は多いのでマッチングは可能だと語る。また,応募者側には,お気楽な田舎暮らしへのあこがれなどではなく,その土地,その会社で人生を賭ける主体的な思いは欠かせないと覚悟も求める。著者の関わった5人の成功事例を紹介しつつ,地方転職自体はゴールではなく,幸せな人生を送るための手段と捉える視野も重要だと言い添えている。

●著者:江口勝彦  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング
●発行日:2022年2月28日  ●体裁:新書版/172頁

日本版ジョブ型人事ハンドブック

 急加速で諸説が飛び交う「ジョブ型人事」につき“今,日本企業が取り入れるなら”という現実的な視点に立ち返り制度設計と運用ノウハウを詳述したコンサルタントの手による解説書だ。前半では,メンバーシップ型雇用とジョブ型人材活用のハイブリッド型の仕組みを提案。日本の社会システムが,新卒一括採用・人事異動・定年退職までのメンバーシップ型雇用を前提に成り立っているからというのがその根拠だ。従って,専門人材は外部調達によって入れ替えるのではなく,社員のリスキルと配置転換で補充していくイメージになる。後半では人事制度構築を扱い,とりわけ「職務記述書」と「職務評価」を重点的に掘り下げている。ただし,職務記述書は作成自体が慎重であるべきだと注意を促し,そのうえでサンプルとともに「成果責任」の定め方をレクチャーする。また,「職務評価」では3つの評価軸と8つの細目を挙げて共有すべき視点を公開。章を改めてレポートされた2社の事例(住友ゴム工業・川崎重工業)も具体的で,要点の理解が進む。

●著者:加藤守和  ●発行:日本能率協会マネジメントセンター
●発行日:2022年3月10日  ●体裁:四六版/216頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki