*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME
 HR BOOKs
  

書評 2022.05

場をつくる

 理論的知見・支援実績ともに豊富な組織開発の専門家による「ファシリテーター型リーダーシップ」の提案と実践ガイドだ。対話のプロセスを経てメンバーたちが理想・課題・行動を共有する「場」をつくることで,変化の激しい環境でも自走する組織は実現可能だと読者の背中を押してくれる。対話の基本では,心理的安全性を核に「拡散(意見を拾う)」「混沌(進化したアイデアを導く)」「収束(適切な選択肢に絞り込む)」「実装(実行可能な状態にする)」という4つのステップで進める構造を概観。そのうえで,各ステップごとに章を改め,具体的な手段の解説,「陥りがちな罠」の指摘,「職場でやってみよう」というアクションのヒント,さらにケーススタディを載せて理解を助ける。認知バイアスなど心理学分野の法則・研究結果を踏まえつつ,柔軟で斬新なアイデアを生み出す方法,躊躇なく実行するための突破法まで盛り込まれているので,会社組織に限らず,問題解決や活性化の必要なあらゆるコミュニティーで応用・活用が期待できそうだ。

●著者:広江朋紀  ●発行:明日香出版社
●発行日:2022年3月24日  ●体裁:四六版/199頁

会社員50歳からの生き残り戦略

 複数の企業で人事部長を経験し,今は人事コンサルタントとして活躍する著者はご自身も50代。独自に実施した「50代社員に関する意識調査」の結果を踏まえ,50代会社員に現実認識を迫り,キャリア形成のアドバイスを語っている。アンケート結果では「新しいことを学習しない」「役に立たない」と辛辣な回答がある一方で「困ったときに頼りになる存在」と肯定的な意見もあり,「今さら」「定年まで逃げ切ろう」と弱気に逃げ込む本人の姿勢こそがネックだと指摘する。実力の棚卸しでは,給与とパフォーマンスを一致させる目安として,年収ランク別のコンピテンシーリスト(等級モデル)を公開し,活かすべき強みを鮮明化する手がかりを提供している。会社は「定年まで働く人」がほしいわけではなく,3年程度で一定の成果を出してくれる人を望んでいると人事部側の期待感も明かし,目指すモデルでは「いつまでに何をやるのか」意志とビジョンのある人を挙げている。副業・マルチジョブが当たり前になる時代を生き抜くヒントが盛りだくさんだ。

●著者:西尾 太  ●発行:PHP研究所
●発行日:2022年3月29日  ●体裁:新書版/231頁

人生の経営

 ソニーCEOを退任したら「一気に視界が開けた」と述懐する著者は,69歳でベンチャー支援企業を立ち上げ,84歳になった今も「現役ビジネスマン」を自認し,「リタイアするつもりはない」と公言する。会社に自ら願い出て様々な部署で越境していたソニー時代の異動歴を振り返りつつ,現役の会社員読者に対しては「サラリーマンだから挑戦できることがある」と語り,社内起業・社内転職でスキルの幅を広げていくキャリア形成を誘いかける。同時に,日本の会社員のキャリア形成が停滞する要因に役職定年・定年延長・退職金制度を挙げ,年齢で一律に区切る悪平等を批判し,制度廃止も大胆に訴えている。一定のスキルを持つ勤労者個々人には,途上国,地方,ベンチャー等いくらでも能力を発揮する場はあるはずなので,定年まで会社にしがみつくような消極姿勢ではなく,外に目を向け挑戦せよと発破をかける。ネット社会で成長するのは製造業ではないと見極め,無形資産で稼ぐモデルを標榜するなどビジネス最前線の慧眼も鮮やかにして隙がない。

●著者:出井伸之  ●発行:小学館
●発行日:2022年4月5日  ●体裁:新書版/191頁

何があっても潰れない会社

 時代の荒波(戦乱・政変・災害・不況・技術革新・グローバル化等)に負けず,100年を超えて生き残ってきた老舗企業は「経営力が高いはずだ」との確信を得て,各社の特徴を考察する事例集だ。「時代の変化に応じて,柔軟に在り方を変える」「目先の利益より,公共の利益を重んじる」「本業を貫き,深化させる」「老舗超大国・日本の1000年企業」の4区分,1000年超の3社を含む計18社を取り上げている。ある企業の社是「最古にして最新たれ」に象徴される通り,各社とも伝統と挑戦の掛け合わせに絶妙なバランスが見て取れる。本業の延長で変化に挑む,財テクには手を出さない,風通しのいい全員経営,危機は起こって当たり前というリスク感覚等はほぼ共通する。経営人材に着目すると,向いていない直系長男を追放し,外部から養子などの手段で適任者を招聘するケースもある。老舗の生き残りの知恵は,高度経済成長期の組織モデルから抜け出せない大企業より,志を持った少人数ベンチャー企業のほうが応用の余地が大きいようにも思えてくる。

●著者:田宮寛之  ●発行:SBクリエイティブ
●発行日:2022年4月15日  ●体裁:新書版/280頁

HRM Magazine.

【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki