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書評 2022.06

薩摩の郷中教育に学ぶ最強の後継者育成

 高度経済成長期の大量生産型事業で繁栄を謳歌し,その成功体験が染みついた経営者たちが引退する今になって,新しい時代を戦える後継人材が育っていないと著者は憂う。これからの時代を担う後継者にふさわしいのは派手に利を追う優秀性ではなく「長く持続する“負けない経営”のできる人材」だと想定し,育成のヒントを薩摩藩の「郷中教育」に求めている。地域自治組織「郷中」では,剣術とともに思考力・発想力・実行力を鍛える仕組みが機能し,とりわけ想定問答を課して仲間と議論する「僉議(せんぎ)」のプログラムが有効だったとされる。正解を与えず,考えさせ,師の教えも鵜呑みにさせない独特の教育は,ゲーム理論「囚人のジレンマ」の4択フレームワークに重なると読み解き,歴史の節目節目で「負けない」戦略を繰り出してきた島津家・薩摩藩・明治新政府の意思決定を検証している。また,事業とともに理念の継承を重視し,JALの再生事例からフィロソフィ経営を考察。現役の社長たちには理念経営のあり方を問い,継承問題の課題に加えている。

●著者:塩野時雄  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング
●発行日:2022年4月20日  ●体裁:新書版/170頁

就職選抜論

 冒頭「採用のミスは後々の経営ダメージを拡大する」と警告する本書は,いわゆるノウハウ本とは一線を画し,選抜に関する科学理論をひもとく研究書のスタイルでまとめられている。就職試験・選抜の歴史および先行研究の概観に続けて,「エントリーシート」「適性検査」「面接」の3つのプロセスにつき,理論と実証分析を解説。定義や妥当性を明確にしたうえで,“やり方”の改革提案,日本企業で実践するための具体策のアドバイスにまで踏み込む。「人材選抜の最終的な狙いは経営成果の獲得だ」と確認し,個別事例の紹介に留まらず「科学的に再現性のある実践知に昇華した」と記されている通り企業担当者向けの示唆を多く盛り込んでいる点で学術的にはユニークな仕上がりだ。記述は身近な比喩やサンプルを用いるなど親切丁寧,しかも歯切れがよく,理解は容易と思われる。日頃作業に追われがちな人事部メンバーの皆さんには,今一度「人材選抜」に関する知見を深め,採用戦略を目的から再構築するバイブルとしてお手元に1冊お勧めしたい。

●著者:鈴木智之  ●発行:中央経済社
●発行日:2022年4月25日  ●体裁:四六版/217頁

働きやすさこそ最強の成長戦略である

 500社以上の経営者・人事担当者と接し,年間7,000件に及ぶ労務相談が寄せられる社労士法人代表の著者が,働き方改革をうまく進めるコツを明かした1冊。法定労働時間と36協定,休日・休暇といった労基法の基礎解釈に続けて,働き方改革関連法の3つのポイント(@残業時間の上限規制,A年休取得の義務化,B高度プロフェッショナル制度の新設)を詳述している。さらに同一労働同一賃金,社内フリーランス(個人事業主化),ジョブ型,副業等「新・雇用形態」の課題に着目し,メリットとリスクを検討。ハラスメントを巡っては,LINE活用による圧迫や会社での婚活といった「新型セクハラ」の動向も追う。また,ブラック社長のタイプを4分類して(@理念最優先,A結果がすべて,B無関心,C突き抜けた社風),パワハラ防止法の意味とリスク回避策を提案している。著者自身のテレワーク事情(乳幼児のいる家庭のリアル)も開示しながら労働時間の窮屈さに触れるなど等身大の課題が挙げられているので,身近なところから知識理解が進みそうだ。

●著者:大槻智之  ●発行:青春出版社
●発行日:2022年5月15日  ●体裁:四六版/223頁

官僚が学んだ究極の組織内サバイバル術

 内閣府の官僚時代には残業が月150時間に及び,国会審議中に倒れたこともあると明かす著者は,岩手県陸前高田市の副市長を経て,現在は静岡県掛川市の市長として活躍する。その経験から,広く一般企業でも通用しそうな組織サバイバルのノウハウをまとめたのが本書だ。「“霞が関流”サバイバル術7か条」「部下を持ったときの5ステージ」「敵をつくらないための4か条」など出世マニュアルに応用できそうなテクニックを整理。とりわけ,部下が上司をコントロールするBOSSマネジメントのウェイトが厚く,論破せずイエスマンにもならずに相手を誘導する方法が紹介されていて興味深い。いわゆる「根回し」はトラブルの芽を摘み取る作業だと割り切り,これができないと“仕事ができない奴”という烙印を押されその先はないとも説く。上司のさらに上役を巻き込む「空中戦」など回りくどいやり方もあるが,いずれも組織遊泳が目的ではなく,本当にやりたいことを実現するための手段だと位置づけ,「しなやかな働き方」を読者に誘いかけている。

●著者:久保田崇  ●発行:朝日新聞出版
●発行日:2022年5月30日  ●体裁:新書版/197頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki





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