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書評 2022.07

Future of Work

 副題に「人と組織の論点」とある通り, 7人のコンサルタントが7章7つのテーマを書き分け,現在およびこれからの人事施策の示唆を提供するコンテンツだ。仕事と組織の未来では人材をコストではなく資産として捉え直す考え方が改めて示され,雇用の行方ではメンバーシップ型とジョブ型のハイブリッド型の導入が進むと推察されている。リーダーシップ論では“外部環境を先取りしながら自己革新を継続し,組織の連続的な変革を牽引できる”「セルフ・ディスラプティブ・リーダー」なる概念を挙げ,5つの要素を特定。人と組織という視点からは役員改革もタブー視せず,ガバナンスコードの改訂を契機とする経営人材の充足を訴えている。とりわけ「執行役員」の立場は少なくとも論功行賞の処遇では株主に説明がつかないと明言し,役割と機能を問い直している。その他,SDGs対応とガバナンスイノベーションへの期待感,自律的キャリア開発のマインドセットなど,気になるホットなトピックの最前線が整理され,共有を図っておきたい知見が満載だ。

●編者:コーン・フェリー・ジャパン  ●発行:日本経済新聞出版
●発行日:2022年5月19日  ●体裁:四六版/312頁

成果が出るチームをつくる方法

 意思決定が早く,個人の影響力が大きく,担当する裁量の広い中小企業を念頭に,チームで力を発揮する仕組みづくりを人材組織育成コンサルタントの著者がガイドする。トップダウンで指示し,背中で学ばせる昭和スタイルが通じない現実を確認したうえで,「自律」をキーに,個人が成長するチームを標榜。目標づくり,職務設計,組織と個人の価値観を共有させていくプロセスから説き起こしている。また,リーダーシップに加えてフォロワーシップの重要性に注目しているのも本書の特徴の1つだ。目的を理解し,自律的に行動し,リーダーを支援するメンバー層の底上げを訴え,建設的な提案のやり方に踏み込む。その過程ではリーダーへのネガティブフィードバックを含むテクニカルな手法が具体的に紹介されているので,部下の立場の読者にも有益なヒントが見つかるはずだ。さらには,目標達成時の打ち上げに言及し,“無計画なお疲れさま会”は逆効果であり,正しいプロセスを評価し次につなげる意識の共有の場とすべきだと引き締めている。

●著者:知念くにこ  ●発行:つた書房
●発行日:2022年5月26日  ●体裁:四六版/208頁

日本的「勤勉」のワナ

 30年間賃金が上がらない日本の衰退原因は生産性の低さにあり,問題は創造性の欠如に行き着くと著者はみている。その創造性を阻害する要因に“職務に忠実な勤勉さ”を疑い,所属部署や上司に忠実なるがゆえに自分で“枠”を決めて思考停止に陥り,定型業務を儀式的にさばくだけの働き方に成り下がっているのではないかと危惧する。対して,仕事の目的,価値,意味までを考え抜く思考力に着目し,判断の“軸”を仲間と共有する「拓く場」を提案。空気を読む感受性を活かしながらも忌憚のない意見を交わし合うオフサイトミーティングの効力を解き明かしている。社内に決定事項を下ろし,部下に結論を押しつけたのでは思考停止に陥るだけであり,まずは「拓かれた仮説」を示して意見を募るプロセスを取り込むことで組織内に当事者意識が芽生えてくると経験則も明かす。よく考える必要のある仕事は“軸”で,定型業務を素早く仕上げるには“枠”で,この2つを使い分けるのが生産的な働き方だと論を導き,思考力の伴った「勤勉2.0」を誘っている。

●著者:柴田昌治  ●発行:朝日新聞出版
●発行日:2022年5月30日  ●体裁:新書版/219頁

オウンドメディアリクルーティングの教科書

 100社を越える事例研究から要点を体系的に整理したという本書が扱う「オウンドメディア(企業が自ら所有し情報を発信する媒体)」とは,典型的には“自社採用WEB”のイメージになる。外部求人メディアの場合,掲載期間が限られ,募集要項も型通りの箇条書きでしか示せないが,自社サイトなら,より求職者目線でコンテンツを作り込み,柔軟に,頻繁に見せ方を工夫した展開が可能になるとされる。特に本書は,業務面の詳細を伝える「ジョブディスクリプション」と,企業カルチャーや雰囲気を伝え共感を喚起する「シェアードバリューコンテンツ」の2点を情報発信のポイントに挙げて詳述。また,情報発信の手段では,WEB,SNS,YouTubeのほか,会社説明会,面接,メールのやりとりまでを“メディア”と捉えて一貫した戦略性を打ち出すようアドバイスしている。検索スキルに長けた世代という求職者側の変化や社会背景の概要に続けて,導入・実践の6つのプロセスを示し,章を改め4社の事例,巻末には30のチェックリストを掲載する充実の構成だ。

●編著者:Indeed Japan  ●発行:クロスメディア・パブリッシング
●発行日:2022年6月21日  ●体裁:四六版/208頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki