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書評 2022.08

オッサンの壁

 均等法第一世代の著者は毎日新聞の記者としてキャリアをスタートさせ,1990年には“男社会”の政治部に配属,2017年には政治部長に就いた。この間,「女性初の○○」と紹介される機会も多く,都度ジェンダーギャップを実感していたと語る。その後,公平処遇・活躍支援の社会政策は進展したものの,人々の意識が変わらないもどかしさは残るとの思いから,本書では自身の職業人生と知人らへのヒアリングをベースに考察を進め,男性優位デフォルト社会の矛盾(=オッサンの壁)の正体に迫っている。その過程ではセクハラ案件も“避けては通れない”と覚悟し,地方記者時代の警察・消防関係者,政治部記者時代の政治家・秘書らの振る舞いを打ち明け「反省しないオッサン社会の深い病」を指摘している。オッサンの壁は越える対象ではなく壊すものだとの確信を得て,「最低3割を占めればジェンダーなど気にしなくて済む」との感覚値から,数を増やす戦略を導くとともに,発言力と経済力の関係にも着目し,女性が稼げる社会の実現を求めている。

●著者:佐藤千矢子  ●発行:講談社
●発行日:2022年4月20日  ●体裁:新書版/235頁

問いかけて心をつかむ「聞く」プレゼンの技術

 オンラインでも応用可能な効果的なプレゼン手法が学べる教科書だ。前半では「自分」「相手」「場」の3方向に対して耳を傾ける「聞く力」の重要性をレクチャーしている。まず,自身に問うプロセスで心底伝えたいことを明らかにする。次に,対象者に応じて伝え方を変えるため好奇心を持って聞き,相手のタイプを見抜く。そして,参加者間の関係性を観察することで働きかけ方が決まるとして,場の変化に気づくためのチャネルとシグナルという専門理論を紹介している。後半は「自分・相手・場に影響を与えるプレゼンスキル」を解説。「印象」「構造」「内容」「伝え方」「つながり方」の5階層各6項目・計30にわたる要点が整理されている。あらかじめ「プレゼンスキル診断表」で自身の強み・弱みを把握しておくと,強化すべき階層とスキルが具体的に分かるという学習の指針まで配慮された設計もありがたい。第一印象の高め方,表情と言動の一致,三幕による全体構成,キラーメッセージの表現テクニック等,実践で役立つヒントが凝縮された1冊だ。

●著者:広江朋紀  ●発行:翔泳社
●発行日:2022年6月22日  ●体裁:四六版/200頁

転身力

 中高年になってからキャリアチェンジを図った人たちへのインタビューを重ねてきた著者が,多くの蓄積事例に加えて自身の半生も振り返りながら「転身」を多角的に考察している。90歳を過ぎても現役の俳優,多分野でマルチに活動するアーチスト,アイドル引退後に学び直し別の道を歩んだ末に音楽活動に戻ってきた人など,パターンは様々あると分析。現役の会社員には「新卒入社した会社で長く満足して働ける可能性は急激に小さくなっている」と警告し,中高年期の“もう1度人生が始まるタイミング”にスポットを当てる。ただ,カードをひっくり返すような突然の「変身」ではうまくいかないとも述べ,今までやってきたことを踏まえながらも軽々に結論を出さず,時に宙ぶらりんの状態に向き合いながら「待つ」時間も大切だと奥行きのあるアドバイスを綴っている。若い頃にやり残したり諦めたりした世界は,実は貯金でもあると独特の解釈を示し,道草を楽しむ余裕に注目するなど,キャリア理論に縛られない随筆風の論考が何とも味わい深い。

●著者:楠木 新  ●発行:中央公論新社
●発行日:2022年6月25日  ●体裁:新書版/223頁

知らないと損する労働法の超基本

 汁なし担々麺の店舗運営会社・長谷川フーズ(架空/広島)に中途採用され,管理部で働く白石ツバサが主人公のストーリー仕立ての労働法解説だ。まず,自身の入社時に「労働条件通知書」がなかったところから物語は始まり,放置されていた労務系の未整備案件が次々と出てくる。就業規則は金庫の中,店舗の就業時間管理は不明確,一律営業手当のみで残業代なし,36協定なし,管理職と管理監督者の誤認,昼休みの電話番問題,店長のパワハラ・セクハラ疑惑,有給休暇が取りにくい社風,妊娠したら退職という暗黙のルール……いずれも「先代の社長の方針」が何となく踏襲され,問題点と解決策を誰も知らない職場。“それはマズイだろう”とツッコミどころ満載でコミカルな舞台設定が,読む側を飽きさせない。直面する緊急課題に加えて,副業・兼業への準備,テレワークへの対応など時代に適した労働環境へ改善を図っていくツバサの奮闘ぶりを楽しみながら,マンガを読むくらいのスピード感で,よくある労務の落とし穴と要点がチェックできる。

●著者:石井孝治  ●発行:日本実業出版社
●発行日:2022年7月1日  ●体裁:四六版/271頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki