書評 2022.09
一般社員を1年で後継者に成長させる人材育成術
著者は,1968年に金型メーカー(ホッカイエムアイシー)を設立。2009年・78歳のときに経営コンサルティング会社を立ち上げ「後継者育成」を指導支援している。かつては著者自身がワンマン社長で,従業員が次々に辞め,外部のプロ労組にも狙われたと明かす。その反省から1970年代には心理学を勉強し,独自の「心理学経営」「共感の経営」を導き出す。主に交流分析を用いて個々の特性を可視化し,採用や人材育成に応用していく方法で,実際,この手法を活用し早期に後継者を育てる13のステップが詳述されている。ただ,本書はテクニカルなメソッド運用ガイドというわけでもなさそうだ。「後継者は選んでから育てるのではなく,育ててから選ぶ」「IQとEQのバランスが大事」「後継者に必要な要素は,愛情とマネジメント力と企業遺伝子の3つ」「社員を育てるには経営者の人間力を高めることが先決」と,噛んで含めるような経営指南がたっぷり詰め込まれている。後継問題に悩む経営者・人事担当者には,じっくり傾聴するような読み方もお勧め。
●著者:阿部 忠 ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング
●発行日:2022年7月28日 ●体裁:四六版/212頁
40歳からのキャリアチェンジ
人生100年・VUCAといった新しい環境を取り込んだ,キャリアカウンセラーの手による中高年のための転職ガイドの改訂版だ。学校でキャリア教育を受けていない世代の区切りとして書名では「40歳」としているが,人材市場はかつてより緩和的で,年齢・性別・学閥のハードルは下がり,その分,ジョブ型に呼応し「何ができるか」がより問われていると説明されている。大枠では「社会人基礎力」の再構築とマインドセットの転換が柱。具体的には自己分析の進め方,職務経歴書の書き方,面接時の質疑例とポイント等がテクニカルにまとめられている。面接の受け答えは簡潔すぎても饒舌すぎてもいけない,内定後に過去を清算する1週間ごとの過ごし方,初出社後のNGワード集など目配りは細やかで,アドバイスは,自信としなやかさを両立させる心のあり方にも及ぶ。同時に「転職ノウハウを分かっただけでは上手くいかない」とも指摘し,「ネガティブ・ケイパビリティ(=答えの出ない事態に耐える力)」に触れてリアル目線のキャリア論を展開している。
●著者:楠山精彦/和田まり子 ●発行:経団連出版
●発行日:2022年8月1日 ●体裁:四六版/183頁
事業部長になるための「経営の基礎」
次世代経営層の育成が急務といわれて久しく,企業はMBA留学支援を推進してきた。しかし,事業を任せようとすると,学習内容と現実の齟齬が大きく,困惑を漏らす人事担当者は多いと著者は語る。その齟齬を埋めるために単科ではなく事業運営を縦貫して理解するための教科書としてまとめられたのが本書だ。とりわけ,事業責任者に必要な重要知識では「財務会計」が最優先に挙げられている。ただ,簿記・勘定項目のスキルは求めず,“儲かる仕組み”が構造的に分かればいいという狙いで,次の段階で管理会計の枠組みを用いて組織と人に落とし込む目標管理・人事評価への展開を提案している。人事分野では改めて「VUCA時代に求められる人事の役割」の章を独立させ,目標管理の運用に加え,リーダーシップの機微や成果を挙げるチームの条件も考察している。経営全般を扱っているので物理的には相当のボリュームだが,専門用語の知識学習ではなく,大枠で“儲かる仕組み”をつかむためのガイドというスタンスで貫かれ,その点は読者も助かるはずだ。
●著者:新井健一/陶山匠也 ●発行:生産性出版
●発行日:2022年8月10日 ●体裁:四六版/476頁
働く悩みは「経済学」で答えが見つかる
本書は,20代〜 40代の社会人勉強会「創造性の大学」での対話記録をベースにしたフィクション。歴史上の先生たち計17人が出没し,過去から未来に至る社会課題を捉えて白熱の講義を展開するユニークな構成だ。例えば,転職と給料の話題を契機にマルクス先生が「価値」について語り出し,忙しさを漏らす参加者の声を聞きつけ「疎外」を解説する。現代の労働者はスマホを駆使し自らアイデアを生み出せる立場でもあるので生産手段の解放が進んでいるとの解釈も示す。また,クリエイティブワーカーのような働き手の場合,「収入=生活の糧」という合理性だけでは説明できないため,ベーシックインカムの支給では解決策にならないとケインズ先生は懐疑的に論じる。さらに「毎日,疲れるのは資本主義のせいか?」との設問に至っては「現代の疲労には原因がない」とボードリヤール先生がシュールに暴走する,といった具合だ。WEB3.0による社会変化やシンギュラリティがもたらす第四次産業革命を見通すなど,学説講義とは違って飽きる隙はなさそう。
●著者:丸山俊一 ●発行:SBクリエイティブ
●発行日:2022年8月15日 ●体裁:新書版/304頁
HRM Magazine.
|