*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME
 HR BOOKs
  

書評 2023.06

採用現場の教科書

 主に中小企業の新卒採用を前提に,計画的,効果的に取り組む方法論を凝縮したベテラン専門家の手による“教科書”だ。様々なキャリア情報に接して多様な価値観を育んできた学生たちは「大企業かベンチャーか」と揺れながらも「中小企業で働く」という選択はほぼ考えない。内定を出しても辞退率50%という厳しい現実をどう乗り越えていくか,「5つの課題」「5つの基礎」「13の実践」そして「4つの鉄則」という構成で対策を整理している。まずは,漫然と「採用」に向かうのではなく,6つのステップに分割して要所を固めるのがコツだと指摘。また,幻の「want要件」人材を求めて振り回されるのではなく,判断の割れない「不合格のmust要件」を共有し,入社後の「こんなはずではなかった」を防止しようとアドバイスしている。採用は内定を出した後が勝負だとも語り,新入社員が定着し,戦力化して活躍するところまでが担当者の仕事だと広い視野を提案する。人材を「集めて,惹きつけて,逃さない」ための要点の再確認にうってつけの1冊だ。

●著者:笹木耕介  ●発行:セルバ出版
●発行日:2023年3月27日  ●体裁:四六版/152頁

人事評価データの分析入門

 本書は評価項目間の相関を統計処理によって解明していくというテクニカルなガイドだ。多くの企業で挙げられがちな「評価のバラツキ」という課題は,評価項目(制度)に起因する問題なのか,評価者の理解不足(運用)によるものなのか。これを科学的に切り分ける手法としてエクセルによるデータ分析を例示。ヒストグラムで可視化し,尖度・歪度を測定していけば“印象”ではなく数字でバラツキを把握できると解説している。別章では,架空の金融機関A社の人事評価データを用いて,業績評価・プロセス評価・能力評価の3つの「相関係数」を確認する。そのうえで,細分化されたすべての評価項目間の相関の数値化も試みる。その結果,「自己啓発」と「チームワーク」には相関が見られない実態を読み取ったり,そこにハロー効果が起きている可能性を推測したりして人事制度設計のヒントを導き出していく。他にも重回帰分析・共分散構造分析,自由記述からのテキストマイニングなどに触れながら,人事担当者をデータ分析の世界へ誘いかけている。

●著者:東狐貴一  ●発行:日本生産性本部
●発行日:2023年4月28日  ●体裁:四六版/108頁

幸福な退職

 博報堂に30年勤務しつつ在職中からサブカル系の評論で活躍し,55歳で正式に早期退職した著者によるユルめのキャリア論。会社員でいるうちに「最後は趣味で食っていくための活動」に本腰を入れておこうと提案し,在職中の働き方のTIPSを9 章(精神論・時間論・後輩論・管理職論・連絡論・企画書論・会議論・プレゼン論・退職論)にわたって展開している。一貫しているのは「無駄なく・無理なく・機嫌よく」の「MMK」だ。例えば,4時間かけて100点満点の仕事を仕上げるのではなく,1時間で65点の合格点までいけるなら,4時間で4つ片付けてしまえと「65点主義」を勧める。また,定時退社し,自分の時間を確保するために「明日できることは今日しない主義」を掲げる。さらに,偉くなったからといって自席にふんぞりかえっていては人も情報も離れていくと警告し,歳を重ねてこそ自分から積極的に動き,そうすれば情報も集まるし待ち時間も削れると語る。一連のTIPSは最後に「カニ十足」(鬼十則のパロディ)として整理され,そのオチもお見事。

●著者:スージー鈴木  ●発行:新潮社
●発行日:2023年5月20日  ●体裁:新書版/224頁

定年前と定年後の働き方

 50代以降の個人を「シニア」と定義づけ,その働き方を探る研究者の手による考察だ。個人にこだわるのは,中高年をステレオタイプで捉え,悲観的に見るマスコミの扱いに実態との乖離を覚えるからだという。シニア自身には,情熱・動機・強みをもとに主体的に職務を再創造するジョブクラフティングを説く一方,企業側には無意識のエイジズム(年齢差別)に注意を促し,権限委譲,定年延長,定年廃止,60歳からの新規雇用などに取り組む好事例を報告している。個人の活動を人生の時間軸で切り分け,現役期間のセカンドエイジと,シニア以降のサードエイジの行動・意識の違いを整理。サードエイジはより自由に就労,ボランティア,学習活動,趣味などに挑める期間だと捉え直す。その前提で50代からの準備を推奨し,60歳・65歳は通過点に過ぎず,定年前・定年後は分断せず連続して思考してはどうかと提案している。また,具体的な働き方では,フリーランスや時間・空間・スキルを組み合わせるモザイク型就労を挙げ,読者の選択肢を広げてくれる。

●著者:石山恒貴  ●発行:光文社
●発行日:2023年5月30日  ●体裁:新書版/243頁

HRM Magazine.

【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki