書評 2023.05
スキルマネジメント
ITエンジニアを派遣する会社を立ち上げ,業容拡大を図ってきた著者がマネジメントの試行錯誤を自ら本書に語る。業績が伸び続ける一方で「離職率40%」という異常事態を経験し,実態を知ろうとエンゲージメントサーベイを実施したところ,スコア(偏差値)は「47.8」に留まっていたと明かす。そこで一念発起し様々な策を打ち出した結果,一般従業員のスコアは改善したが,今度は“寄り添い型”のマネジメントに疲弊したプレイングマネジャーたちが次々に退職し業績が悪化してしまう。「従業員満足度とエンゲージメントスコアを混同した」との反省を経て,やがて能力開発を人事制度にひもづけデータを一元化し,仕組みで進める「スキルマネジメント」に行き着く。エンゲージメントスコア「71.5」を獲得するまでの格闘物語と同時に,「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」「KGI・KPI・MBO」「社会人基礎力」「コンピテンシー」「1on1」「パーパス経営」等を知識ではなく現場で実践しているモデルケースとしても注目しておきたい。
●著者:中塚敏明 ●発行:クロスメディア・パブリッシング
●発行日:2023年2月1日 ●体裁:四六版/232頁
あそぶ社員研修のススメ
報酬をちらつかせて従業員のモチベーションを高めようとしても価値観の多様化する時代には通用せず,注目すべきはエンゲージメントだと著者は提案する。そのエンゲージメントを高めるカギはコミュニケーションにあると押さえたうえで,飲み会やタバコ部屋が機能しない今,社内イベントの再評価が加速していると報告している。具体的には「チャンバラ合戦」「謎解き脱出ゲーム」「サバイバルゲーム」などの手段があり,コロナ禍では「オンライン運動会」や「SDGsビジネスゲーム」も手がけてきたという。「非日常」はメンタルヘルスの刺激に加え,参加者相互の適性を知る機会になり,フラットな関係の構築,一体感の醸成などを通じて最強のチームビルディングを実現するメリットがあると語る。また,アクティビティの伴う研修には座学とは異なる理解促進作用が認められるとして「あそび×学び」の効用を解説,著者らがプロデュースしてきた9社の研修・イベント事例を紹介している。企業人事の読者としては費用対効果の視点でも要チェックだ。
●著者:赤坂大樹 ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング
●発行日:2023年2月17日 ●体裁:新書版/180頁
エンゲージメントを高める会社
「失われた30年」の間もマネジメントの枠組みを変えず,目標が上から降りてくるMBOを続けていたのでは従業員の働き方は他律的になり動機づけもできず,イノベーションは起きないだろうと著者は危惧。これに対比させる形で,一部の企業で進む「ワークエンゲージメント」を軸にした新たなパフォーマンスマネジメントの全体像を本書に描き出している。ワークエンゲージメントを高める要素では「楽しみ」「意味」「可能性」を挙げ,いずれも自律がベースになると強調。従業員本人の志望と成長のためのキャリア機会を議論する「人材開発会議」を提案する。また,人事の仕組みでは,等級・評価・報酬等を決めて管理していくという発想から脱し,パフォーマンスマネジメントを実現するための制度を模索するスタンスを説く。そのうえで「OKR」「バリュー」「1on1」「360度評価フィードバック」「エンゲージメントサーベイ」という5つの要素の関係と個々の運用法を解説している。新時代に対応する人事の姿が立体的に可視化されていく注目の1冊だ。
●著者:松丘啓司 ●発行:ファーストプレス
●発行日:2023年4月10日 ●体裁:四六版/199頁
人事評価制度17の大間違い
30年以上にわたり人事コンサルティングを手がけてきた著者が,中小・ベンチャー企業の社長に向け,人事制度へ過度の期待をしないよう諭す逆説的なコンテンツを綴っている。「評価制度を変えてもモチベーションは高まらない」「評価制度をいじっても売上・利益には関係しない」とビジネスを冷静に見据え,人事評価の本質は「評価者」と「面談」にあると解説している。すなわち,部下から信頼・尊敬される上司が評価を担当し,四半期に1回以上(各回1時間以上)の評価面談を実施すればうまく機能するという見立てだ。いずれも社長の抱くMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)との共感という前提条件が重要視され,その点で本書のメッセージは意外にアツい。中心となる章では「人事制度で人が育つ」「成果を出した人を管理職に昇進させる」といった誤解を17トピック挙げ,失敗する実態を解明し「これが正しい考え方」と題した適切な認識へ導いてくれる。最終章「人事評価制度で成功するコツ」もコンパクトな経営指南に整理され一読の価値は高そう。
●編著者:白潟敏朗 ●発行:すばる舎
●発行日:2023年4月12日 ●体裁:四六版/296頁
HRM Magazine.
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