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書評 2023.12

部下を活かすマネジメント“新作法”

 自分たちの経験してきた部下管理のやり方が通用しない状況に戸惑う部課長を対象に,解決のヒントを示してくれる1冊。@働き方の変化,Aキャリアと育成,B上司力(部下指導),C組織運営(チーム力),D多様性(DE&I),E人事・賃金制度の6章・計20に及ぶ“新作法”を解説している。例えば,リモートワークで生産性が懸念されるという課題には,性悪説で監視を強めるのではなく,部下を信じて任せ,自律的な創意工夫を引き出す働きかけを提案。世代感覚の違う若手に向き合うときには,いったん相手の言い分を受け入れ,価値観の違いを知り,そのうえで管理者自身の在り方を定めて,接し方を変えてはどうかと,独自のコミュニケーションサイクルを図解しながら説き起こす。また,働かないおじさん問題では,当事者意識が芽生えれば人は変わるとも述べ,持ち味の活かし方を探っている。いずれもお手軽なTIPSというわけではなく,時代の潮目を俯瞰し,理論的かつ人の可能性を信じる熱量の伴った考察で一貫しているので,読み応えは十分だ。

●著者:前川孝雄  ●発行:労務行政
●発行日:2023年9月26日  ●体裁:四六版/303頁

男子系企業の失敗

 単なる改善を構造改革と言い換え,数字に表れた結果が「失われた30年」だったのではないかと著者の視線は鋭く厳しい。経営陣が先を見越した手を打てなかったのと同時に労働側も現状維持に執着してきたと振り返り,背後に認知バイアスを見つけている。特に「損失回避性」と「不確実性の回避」は遺伝子レベルで日本人に強いとの認識を示し,経営陣の現状維持バイアスは,男性中心の同質性集団に起因しているとみて男女差を検証。経営陣の半分を女性が占めていたなら巨額不正会計事件など起こりえただろうかと問う。類似の視点から,リーマン・ブラザーズの経営陣に女性が多くいたら破綻は避けられたかを探る「リーマン・シスターズ仮説」を紹介するなど興味深い推論を展開している。同質性集団で育った人材では前例踏襲を止められずリーダーの器になりにくいとバッサリ。外部プロ経営者が注目されるのは“内部素人経営者”の存在を証明していると,いずれも指摘はごもっともだが,著者自身は「怖いもの見たさで楽しんで読んで」と自薦している。

●著者:ルディー和子  ●発行:日経BP/日本経済新聞出版
●発行日:2023年11月9日  ●体裁:新書版/224頁

問いかけが仕事を創る

 ゼロからイチを生み出すイノベーション支援を手がける立場にいる著者は,不確実性の高い時代にビジネスパーソンが身につけるべきスキルとして「問い」の力を挙げ,その本質を掘り下げていく。従来のロジカルシンキングが選択肢の中から正解を導き出す手法であったとするならば,これから必要とされるのは“新しい選択肢を創造する力”だと表現し,コアとなる「問い」を立てる思考法をレクチャーする。重要なのは「なぜ」で終わらせず,「もし〇〇だったら」「どうしたら〇〇できるだろう」という,アクションを導き出す「良い問い」を洞察するプロセスだとされる。そのヒントとしてブレストに模した「クエスチョン・ストーミング」という手法を紹介しているが,ポイントは体系づけられた手順・方法の習得ではなく,フレームワークを作り出すマインドに訴求がうかがえる。表層的な機能の理解ではなく,情緒的価値まで深く考えるスタンスを説き,戦略を立て解決策を導く人材にとどまらず,文化を変えていける人物の登場に期待をかけている。

●著者:野々村健一  ●発行:KADOKAWA
●発行日:2023年11月10日  ●体裁:新書版/251頁

AI失業

 早い段階から人工知能の動向を注視してきた“本業・経済学者”の著者が,AIがもたらす仕事・産業・経済の変化・功罪を考察する1冊。職業への影響では,AIの普及が進むと経済学でいう「技術的失業」が起きると確信し,職業そのものは消滅しなくても従事する雇用者は減少していくとみている。専門職・事務職・営業・販売・大学教員・プログラマーの各職種の未来を検証しつつ,労働市場の動きでは,ブルーカラーよりホワイトカラーのほうが先に大きな影響を受けると予測している。第四次産業革命が本格化する2030年頃,その“AI失業”はより深刻化すると見通しを示す一方,人との比較から,五感・感情はAIには理解できない領域だとも語り,相手の表情を察して寄り添うようなホスピタリティを例に挙げる。果たして失業者があふれかえるディストピアは到来するのか。それを回避する策として,著者はベーシックインカムの支えによる「脱労働社会」(労働が人生の中心を占めなくてもいい社会)を提案する。行く末は案外に悪くないのかもしれない。

●著者:井上智洋  ●発行:SBクリエイティブ
●発行日:2023年11月15日  ●体裁:新書版/264頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki