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書評 2025.03

未来のキャリアを守る休職と復職の教科書

 大手外資系企業20社以上で産業医の任に就き,のべ1万人以上とメンタルヘルス面談を重ねてきた著者が「休むためのガイド」を体系化した1冊。土日遊びすぎる人は健康,土曜に休養し日曜は来週に供え体力温存を図る人は要注意,土日の間カーテンも開けずパジャマ姿で過ごす人は受診レベルだと症状をかみ砕いて説明している。心配されがちな休職期間中のお金の問題では,就業規則に定められた有給期間があること,その後も傷病手当が出ること,ただし社会保険負担は生じる事情まで目配りされている。休職後は,休息期・回復期・復職準備期という3 段階で職場復帰を試す。それでも再発してしまう場合は,その仕事を辞めれば治ると語り,「仕事(キャリア)と健康どちらが大事ですか?」と問う。ストレスの正体,病状・症状のパターン,クリニックの見つけ方,復職判断基準など事前に知識を得ておけば,メンタル不調へ向き合うハードルは下がる。働く本人はもちろん,上司の立場にある方,人事労務担当者の方にも一読をお勧めしたい内容だ。

●著者:武神健之  ●発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン
●発行日:2025年1月26日  ●体裁:四六版/271頁

グーグル社員はなぜ日曜日に山で過ごすのか

 著者は在米のジャーナリスト。山々に囲まれた国立森林公園内のコミュニティに住み,ここを訪れるビジネスエリートたちへの取材を通して「休み方」と「イキガイ」の関係を考察する。自由な働き方と手厚いサポートで知られたグーグル社も,2023年から2024年にかけて大規模なレイオフを実施するなど不安定な雇用は米国企業の日常であり,ゆえに何が起きても大丈夫な自分を創るため,「積極的な休暇の過ごし方」が注目されているとレポートする。象徴的なスタイルの例としてソロキャンプを挙げ,喧騒から逃れ,デジタルデバイスから距離を起き,マインドフルネスを実践する人々を紹介。仕事に振り回されず,自分の価値観を確認するため,また,リラックスした状態でひらめきを誘発させるため,最低でも週に120分は自然の中に身を置こうとアドバイスを綴る。本文では39の「働き方と生き方を変えるヒント」,さらに巻末には52の「月曜からパワーがみなぎる習慣」をまとめ,疲労回復やストレス解消ではない,積極的な休み方を提案している。

●著者:河原千賀  ●PHP研究所
●発行日:2025年2月6日  ●体裁:新書版/231頁

僕らは,なにを武器に働けばいいのだろうか?

 設備設計会社の社長の手による「仕事のプロ論」。自称プロではなく周囲に認められ,集団でチーム力を発揮できる存在を想定し,フリーランスやスペシャリストとも区別している。コスパよく成長していくために身につけたい力を6つ(完遂力・調整力・相談力・計画力・提言力・協働力)挙げ,さらに何事も鵜呑みにぜず疑ってみる「疑心暗鬼になるクセ」を加えて,成長していくノウハウを整理する。早く一人前になって活躍しなければと焦る若者には「時間をかけないと身につかない技術もあり,それが後々の価値になる」と諭す。また,若いうちこそ残業を頑張るのではなく段取りを工夫するといった知恵を身につけるべきで,それが体力の落ちてくる15年後の自分のためになると説く。会社の評価制度は就職先を見極める指標になるという前提で,著者の会社で導入予定の職種別評価項目の一覧も公開している。「どんな仕事にも楽しさは隠れている」と語る温かいまなざしとともに,いい話,鋭いアドバイスが凝縮され,ぜひ悩める若者に手渡したい。

●著者:村井一雄  ●発行:アスコム
●発行日:2025年2月14日  ●体裁:四六版/272頁

「越境」支援戦略 人事のための導入のポイントと事例

 イノベーションは“越境”を契機に起こるという歴史を俯瞰しつつ,本書はまず,企業経営の次元から多角的な動きを考察する。続けて労働市場に見られる様々な変化を挙げ,それらに対応するためにも,また,茹でガエル現象を防ぐ意味でも組織的越境支援のアクションが必要だと訴えている。注目したいのは,「アンゾフの成長マトリクス」に模して,タテ軸に居場所(部署・職場)×ヨコ軸に提供価値(スキル・スタンス)の4象限を描き,「今の自分」を起点に「開拓者」「開発者」「変革者」へ越境するイメージを示した解説だ。例えば,「今の自分」から「開発者」へ越境する際には,人事異動,キャリア研修,スキル研修,経営者との対話といった支援が有効だとして,人事施策を列挙していく。著者らの研究成果から,エース級を筆頭にできるだけ多くの人材を異動させるのが望ましいと導き「可愛い社員には越境させるべきだ」と提言。守りの姿勢に固執しがちな「人事部」に対して「越境しているか?」と熱く(かつ懐疑的に)問いかける論点も面白い。

●著者:井上 功  ●発行:中央経済社
●発行日:2025年2月20日  ●体裁:四六版/176頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki






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