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書評 2025.02

BCGの育つ力・育てる力

 BCG(ボストン コンサルティング グループ)のメンバーは,入社1年で「中堅」,2年で「ベテラン」,3年で「一段上の仕事へ挑戦」という成長段階を期待される。本書は,その超高速で人材を育てる方法論を“中の人”が語った1冊だ。学習能力に長けTOEICスコアは高いのに海外と関わろうとしない「資格マニア」や,グラフは精緻に作り込むのに数字の意味まで思考が及ばない「作業屋」が伸び悩むのは,成果志向のマインドが伴わず本質的な成長がないからだと指摘する。また,士業出身者は,判例や調査レポートなどすでにどこかにあるはずの解を求めがちなので,答えのない状況で仮説を打ち出し前に進めるスキルを鍛える必要があると述べている。コンサルタントを例に人材の成長を加速させる鉄則を4つに整理。さらにPDCAサイクルに則って育成を仕組み化するメカニズムを明かす。期待され見守られていると感じる「6割の安心」と,このままじゃまずいと緊張する「4割の不安」をコントロールして対峙する生々しいアドバイスが興味深い。

●著者:木村亮示/木山 聡  ●発行:日経BP・日本経済新聞出版
●発行日:2024年10月25日  ●体裁:新書版/268頁

ブラック企業戦記

 日々ブラック企業を相手にしている複数の弁護士たちによる39の事例報告(同一事例の後日談含む)。いずれも相談案件の概要と法的対応(交渉・労働審判・裁判)の過程・決着に至るまでのストーリーが簡潔に記述されているので,一気に読める。「36協定って何ですか?」「私は社長ですよ,解雇を言い渡して何が問題なんですか?」「殴るのも愛情表現です」と逆切れする悪徳・ワンマンを絵に描いたような経営者たちが続々登場する。所定労働8時間・週休2日の会社で業務日誌に「人の3倍働け」「週120時間働け」と激励コメントを記す社長もいて,対応した弁護士は「1日24時間働く計算になる」とあきれる。「ウチは36協定を結んでいるので残業代は払わない」という珍解釈あり,人柄は温厚なのに無知ゆえに違法状態に気づきもしない社長あり,不謹慎ながらコメディー映画の台本のような読み方ができてしまう。人事部門の機能している会社ではありえない話ばかりだが,今の日本で現実に起きている事例であることに改めて驚かされる。

●著者:ブラック企業被害対策弁護団  ●KADOKAWA
●発行日:2024年12月10日  ●体裁:新書版/320頁

あなたの価値の育てかた

 学生時代から事業を起こし,ITバブルの崩壊を体験,その後はマイナビに就職し,長く新卒採用の営業を担ってきた著者が,適職を見つけ前を向いて働くためのガイドを語る。キーワードは現在の著者の会社名でもある「ユニークピース」だ。“替えのきかない1点ものの価値”といった意味が込められている。マッチングに頼りすぎたり,既存の職種に当てはめようとしたりして創造性を抑制してしまう就労を警戒し,好きなことを手がかりに自分の価値を見つけ,育てる方法を解説する。自分のことは主観的にしか認識できない傾向を前提にツールの活用を提案。「エンジョイ年表」と「エモーションマップ」を作成し「未来マップ」を描くワークをレクチャーする。一連の方法論の背景には著者自身のキャリアの蓄積があり,その軌跡にも注目したい。営業成績が絶好調な時期もあれば,事業が打ち切られメンバーが次々に退社していくような負の局面もあったという。その都度挑戦し,行動し,気づきを得ていくレジリエンスの形成過程も読みどころだ。

●著者:池本博則  ●発行:アスコム
●発行日:2025年1月6日  ●体裁:四六版/272頁

組織と仲間をこわす人,乱す人,活かす人

 アカデミックな世界,学校教育の現場でキャリアを重ねてきた著者による59話のエッセイ集。新聞に連載していたコラムがベースゆえ,本書では1トピックあたり2ページ半という読みやすく飽きない量にまとまっている。主に,上司=部下の関係を中心に職場と組織の諸課題を扱っているが,「人望」の要素を掘り下げていくなど,多くがアナログ目線による考察で,それが想定外に沁みる。他にも,仕事観,労働観,キャリア形成,プライド,働きがい,責任と義務,企業人の矜持・美学といった題材を拾い上げ,「筆者の私見だが」と断りながら,じっくり,ゆっくり本質を見極めていく筆運びで一貫している。管理職・リーダーへのアドバイスでは「目標の意味を伝え,目的を情で訴える力」を求め,権力行使への自戒を諭す。ビジネス系ハウツー本とは違い,人に向き合い,考えを深め,ときにユーモラスに語彙を操る教養の深さと余裕がにじみ,味わい深い。同時に数字や成果パフォーマンスに追われ,大きな忘れ物をしてしまったような焦りの感情も覚える。

●著者:平岡祥孝  ●発行:PHP研究所
●発行日:2025年1月10日  ●体裁:新書版/197頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki