書評 2026.7
心が動くマネジメント物語
管理職育成の第一人者である著者が18のストーリーで“マネジメントの喜び”を語る。「上司力」の6つの要素(@上司と部下の絶対的な信頼関係を育む,Aアドバイスより傾聴を徹底する,B仕事の意義や目的を理解させる,C小さなキャリアの段階を作る,D誰かの役に立っている実感を演出する,E一人ひとりを活かす組織を完成させる)につき,各3話ずつ物語に続けてポイント解説を加えていく構成だ。そんなに素直に都合よく人は育つだろうかと疑いたくなるような話のほか,上層部や周囲の非難から部下を信じて守った結果,後年その部下が大きな成果を結実させるに至ったオチなど,涙腺がゆるんでしまうような展開もある。仕事を「やらなきゃ」から「したい」と部下が変わる,作業をこなすだけだった部下が自分の仕事だと目覚める,徹底的な傾聴を機に年上部下の態度が変わる,そうした瞬間にどのような作用が働くのかがリアリティを伴って理解できる。すべてが実話であり「管理職は罰ゲームなんかではない」と断言する著者の熱量は高い。
●著者:前川孝雄 ●発行:FeelWorks
●発行日:2026年6月1日 ●体裁:四六版/208頁
「働きやすさ」を超える組織と人のエンゲージメント
ワークライフバランスへの過剰な配慮や働きやすさの対外アピールがビジネスの本質と乖離しているのではないかとの疑問を手掛かりに,従業員エンゲージメントを掘り下げていく論考。「働きやすさから働きがいへ」と象徴的なフレーズを掲げつつも本書が扱うのは情緒的な満足度の話ではなく,事業戦略と従業員エンゲージメントの接続の課題であり,経営層の理解とアクションを求める内容に絞り込まれている。従業員エンゲージメントが財務業績に貢献する関係性から説き起こし,影響を与える因子を「12の原因指標」に整理。このうち,高水準企業と低水準企業の差を「教育・研修」「リーダーシップ」「戦略・方向性」の3点に見出す。さらにカギとなる「経営リーダーシップ」の概念では,パフォーム(既存事業の磨き上げ)とトランスフォーム(全社変革の推進)の2つを両立させ牽引するコンピテンシーを洗い出して説明する。エンゲージメントが高水準の会社として紹介されている3社(三井物産,アイシン,村田製作所)の事例も注目ポイントだ。
●著者:岡部雅仁 ●発行:日本能率協会マネジメントセンター
●発行日:2026年6月10日 ●体裁:四六版/231頁
マネジャーのための時間管理術で最高のチームをつくる方法
突出した成果を出せる特定部下に頼らず,新人・中堅・ベテランそれぞれの得意・能力を組み合わせてチームの成果を最大化するための方程式をレクチャーする1冊。メンバー各自が同じ仕事に取り組むだけの場合を「足し算」,個々の特性を組み合わせる運用を「掛け算」と表現し,誰に何を任せるかを時間配分の観点から設計する方法を公開している。さらに,今持てる能力の組み合わせ(短期)と,失敗体験など一定の非効率を許容して成長時間を確保する組み合わせ(長期)に分けて,勝つだけではなく勝ち続けるための準備も訴える。ここまで考えを深めたうえで“時間を投資する”概念を導き,「組織時間設計図」というツールを用いて具体的な状況の可視化を試みていく。メンバーとともに最重要投資先を見極め,無駄を削って時間を捻出し,成功確率という変数を組み込んでチームを設計するダイナミズムが分かるので,読者自身のマネジメントスキルの向上も期待できそう。日々の判断にも場当たりではない確かな根拠を持てるようになるはずだ。
●著者:川内正直 ●発行:翔泳社
●発行日:2026年6月17日 ●体裁:四六版/224頁
学生・社員・企業を好転させる三方良しのインターンシップ
大学の就職支援センター長を経験し,海外の就労支援(地域連携)事情を研究し,「三方良しのインターンシップ」を提唱する著者が,本書に5社の事例を紹介する(三方とは学生・社員・企業を指す)。5 社とも職場に学生を受け入れる活動自体は「インターンシップ」といえるが,実のところは就活でも採用でもなく,組織変革を誘発させる経営インパクトの大きさに驚かされる。不活性な日常に若い人が入ってきて「やりがい」を問われた社員が戸惑い,それが起点となって社員も会社もポジティブな姿勢に変わっていくというストーリーが典型だ。黙々と職人が働くような職場でも,若い人が刺激になり化学反応が起き,企業自身の問いに跳ね返って「経営指針」の見直しにまで動き出し,パーパス・クレドが意味のあるものに変わった会社もある。松・竹・梅の3コースを用意したり,「育てる人財が育つ」メリットを狙ったり,企業側の創意工夫もリアルに描かれている。求人マッチングなどとは次元の異なる“本質的な場づくり”の重要性に気づかされる。
●著者:前山総一郎 ●発行:ナカニシヤ出版
●発行日:2026年6月30日 ●体裁:四六版/205頁
HRM Magazine.
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