書評 2026.6
部下をもったらいちばん最初に読む伝え方の本
部下とのコミュニケーションに悩むマネジャー向けに“リードマネジメント”第一人者が語る指南書。正論で部下を指導しても思い通りに動かないのは当然だという前提で,本人が自ら動き出したくなるような“関わり方”を根本から見直す方法論を開示している。その関わり方は,マネジメントと部下それぞれのタイプによって異なるとされ,各スタイルの特徴を分類して有効な接点を探っていく。部下との会話はキャッチボールが基本であり,剛速球でもドッジボールでもないとたとえて,ボールの投げ方の前に,相手が受け取れる状態にあるかに留意を求める。部下を観察し,理解し,フィードバックで成長を促す道筋とともに,1on1での会話を例示。また,仕事を任せる際は成長を主眼に置き,タスクを振るのではなく,意味を伝え,部下自身が“これは自分の仕事だ”と思える決断を渡すのがポインドだと説明している。言い方のテクニックではなく,層の深いところでの関わり方を確認し,機能するコミュニケーションの核心部分を掘り下げていく熱量十分の1冊だ。
●著者:橋本拓也 ●発行:アチーブメント出版
●発行日:2026年4月3日 ●体裁:四六版/263頁
上司はリスクばかりを指摘する
部長・本部長に昇進しても仕事ぶりが課長のままの管理職を「大課長」と名付け,その状態が組織にもたらす問題点を洗い出し,改善のヒントまでを探る論考。現場好きの大課長が良かれと思って口を出したり,プレマネの延長で仕事を抱え込んだりする場面を例に,経営・人事の構造的問題を整理する。課長が短期のタスク(業務推進・チームビルディング)を担うのに対し,部長・本部長には長期の視点(戦略・組織設計)が期待されているはずだが,大課長には,全体俯瞰力,情報分析力,仮説設計力,関係性構築力など必要なスキルが身についていないと指摘。独自調査を基に,部長・本部長の約半分が大課長化している実態を報告する。改善策では,役割定義とスキルの再設計を第一に挙げ,トランジションのためにアンラーニングとリスキリングがカギになるとも提案する。改善・予防を成功させた3 社(日揮・エーザイ・三井住友カード)の取材事例のほか,最終章には16項目の「大課長チェックリスト」を載せて,改善のアクションをアドバイスしている。
●著者:林 宏昌 ●発行:朝日新聞出版
●発行日:2026年4月30日 ●体裁:新書版/219頁
会社で働くとなぜ幸せになれないのか
退職代行に象徴される通り人々が簡単に会社を辞める「大退職時代」が世界で共通して起きている現象を捉えて,著者は“会社離れ”の背景と働き方の関係を考察していく。その過程では明治時代にまでさかのぼり,人々が会社に人生を預けるようになった変遷を概観。高度経済成長期,モーレツに働いたエコノミック・アニマル時代,自由とモラトリアムに価値のあったバブル時代のフリーター,氷河期を経て非正規労働が自己責任論で追い込まれるまでを「働いていれば幸せになれたか」と問い続ける。会社で働くよりマシというコスパの価値観からFIREを目指す最近の動向も視界に入れて「会社員時代の終焉」を多角的に論理づけていく。筆運びのベースは搾取を警戒する立ち位置ながら,描く先は「働かない社会ではない」とも明言。究極的には人生という時間を誰のためにどう使うかだと課題意識を自問したうえで,ジョブ型から派生する自営業・起業への転換といった動きには「命令されて働く」ことへの抵抗になるかもしれないと期待もにじませている。
●著者:今野晴貴 ●発行:SBクリエイティブ
●発行日:2026年5月5日 ●体裁:新書版/248頁
定年後,上機嫌を愉しむ
本書が想定する「定年後」とは,仕事を完全に離れた後の時空間であり,もはや働き方には言及していない。その“離れ方”を巡っては,肩書や地位を失った事実はコントロールできないので「見切る」判断が必要だと述べ,戦力外通告を受けたスポーツ選手のシフトチェンジに重ねて,経済的人間から文化的人間へシフトするヒントを諭している。そのモデルとなる姿が「円熟した大人」だ。スキルの上達段階を「成熟」とするなら,「円熟」は人格とユーモアを兼ね備えた上機嫌な状態になると定義づけ,いかにその域に近づくかをレクチャーしていく。嫌われがちな不機嫌なシニアが感情に流されているのに対し,上機嫌な人は意志の力を働かせていると説く(著者自身は「職業的上機嫌」を演じていると明かす)。身体の整え方,声の出し方,間の取り方に加え,所属・役職に関係のない知性・感性・社会性が露呈する「定年後の雑談力」に注目し,アドバイスを綴る。内外の古典・哲学を縦横に引用しながら死生観に迫る,ビジネスとは一線を画した教養の1冊。
●著者:齋藤 孝 ●発行:ポプラ社
●発行日:2026年5月18日 ●体裁:新書版/237頁
HRM Magazine.
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