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5番目の経営資源「労働組合」に注目を

j.union梶@代表取締役会長 西尾 力

 経営陣および管理職が,従業員を最も生産的・効率的に働きうるよう企業のなかでサポートする職務,それが人事労務担当者の仕事です。また,そのような職務のノウハウや人事労務管理制度を紹介する指南書は巷に満ち溢れています。しかし,経営陣および管理職のリーダーシップにしても,人事労務管理のいかなるノウハウ・制度にしても,常に成功裏に成し遂げられている状態とはいえません。
 この悩ましい従業員マネジメントの領域こそが労使関係と呼ばれるもので,そこには常に対立・葛藤が生まれます。また,それは未来永劫発生するといってもよいでしょう。この労使関係の一方の当事者が労働組合です。この労働組合という存在について,まだ多くの経営陣および管理職は,憲法第28条(勤労者の団結権)や労働法で認められているがために法的に一応の市民権を認めるものの,「必要悪」以上の評価を与えていません。なぜでしょうか? それは,経営陣・管理職の視野に,20世紀型労働組合の強烈な残像が存在し,その影響で,今日の労働組合という組織および機能を客観的かつ冷静沈着に把握することができていないからです。

■労働組合の機能は大きく変化してきている

 もちろん,一部の労働組合には,マルクス主義や欧米型ビジネス・ユニオニズムの労働組合主義の路線継続を意図する形態が根強く残っています。しかし,実は,今日の労働組合は組合活動にマーケティングとイノベーションが取り入れられ,改革派リーダーたちによって業態転換が推進され,労働組合の目的・機能が変化しています。また,日本の社会・経済が変革期に入り,かつ多様化・個性化する従業員の存在によって,労使関係が新たなステージに至っています。労働組合法第2 条に定義されるような目的,賃金闘争(経済学的機能)を担う組織としてではなく,経営学的意義と機能を持った組織へと業態転換を遂げています。つまりそれは,「自分たちの所属する会社を日本一・世界一の『良い会社』にする」「労働者の集団からプロフェッショナルの集団を目指し,人材育成機関として機能させる」「集団および個別の労使関係に発生する問題を,労働三権ではなくマネジメント力によって労使対等になり,Win-Winで問題解決する」という意義と機能を労働組合が持つということです。労働組合は,人・物・金・情報に次ぐ5 番目の経営資源といえます。
 ただし,P.ドラッカーが「組織構造が良ければそれだけで優れた業績が生まれるものではない」と述べて経営者のリーダーシップを問うたように,ただ労働組合を作ればよい,あればよい,というものではありません。その労働組合が適切なリーダーシップによって運営されることが求められます。

■労働組合には労使関係の葛藤を癒す役割も

 企業経営においては,従業員の能力と責任に期待を寄せ,同時にビジョンや従業員の努力に共通の方向性を示し,チームワークを打ち立てて,個人の目標と企業の目標との調和を図っていく組織運営が求められています。しかし,「会社」という組織体の運営では,様々な阻害要因が生まれます。人間が組織に割り当てられた仕事を受動的に引き受ける機械のようになってしまうと,モチベーションの低下だけでなく,生産性・創造力の低下,品質の劣化,事故の発生という負の現象さえ生み出します。
 これらの葛藤・対立は,今日の「会社」内では,ますます増大しています。ですから,労使関係上に生まれる問題点・苦悩を克服し,癒してくれる経営資源が「会社」に求められているのです。そして,その役目を有効的に果たせるのが今日の労働組合なのです。

(月刊 人事マネジメント 2011年12月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

  
1951年静岡県生まれ。大手企業労働組合(専従役員)にて組合役員・組合員教育、情報宣伝、調査(賃金・経営分析)活動に従事。その後のパソコン通信会社の起業と経営危機体験を踏まえ、現在は、j.union鰍ノて、主要企業の労働組合を中心に、調査、情宣、教育、システムの面からトータルに活動支援を展開している。

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