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イノベーションのために乗り越えるべき壁
フェリックス・パートナーズ梶@代表取締役/立教大学大学院 特任教授 宮下篤志
ビジネスの世界において「イノベーション(革新)」を否定する人は少ない。それほどこの言葉の響きは,希望に満ちた素晴らしい世界を想像させてくれる。しかし,イノベーションは理屈ではなく,実践であり,結果である。イノベーションを起こせるかどうかは,実践できるかどうかにかかっている。以下,そのハードルについて考察し,乗り越えるための要点をお伝えしたい。 ■新旧のバランス感覚を併せ持つ
第1のハードルは,古いものが新しいものに取って変わることに対する抵抗感である。そこには大きな混乱が伴うことをある程度予測しなければならない。乗り物が馬車から鉄道に変わるような大きな技術革新なら,混乱も収束に向かうが,組織におけるイノベーションは,持続性を保ちながら変化するというトレードオフを乗り越えなければならない。このトレードオフを調整するのは,組織のリーダーの役割である。リーダーには,新しい部分と古い部分を行き来できる微妙なマネジメントが求められる。以前に小泉純一郎首相が「自民党をぶっ壊す」と名言しながらも,実は微妙なバランスをとっていたことが好例である。 ■効率性の追求と創造性の発揮の両面作戦で
第2のハードルは,ハーバードビジネススクールのクリステンセン教授が提唱しているイノベーションのジレンマといわれるものである。「現在の顧客の要望にだけ効率的に応えるようになると,新規顧客の要望を取り逃がしてしまう」ことがある。日頃,筆者が直面する課題として,効率化を追求して日々業務を円滑に行う組織は多いが,内外の環境に対応しながら柔軟にものごとを創っていく組織が少なくなっていることが挙げられる。日本のように成熟した市場になると,顧客がある程度決まってくるので,利益を追求すれば効率化を図ることが大きな仕事となる。そうなるとルーティンの仕事が大半を占めるようになり,導入期にあった創造性が薄れてしまうのである。こうした組織では,もう一度,原点に立って,顧客の創造から始める必要がある。その場合,現在行っている効率化を実践しながら,創造にも挑むという柔軟性が求められる。それは,組織の1人ひとりが柔軟性を持つ必要をも意味する。 ■ニーズに適合した品質基準に転換させる
第3のハードルは,新興国におけるビジネスの品質レベルの見極めである。日本基準の高品質製品が新興国ビジネスでは必要とされず,オーバークオリティが生じていることはよくある。それでも「日本基準はすべてに優れている」と現地のニーズに適合しない製品を販売しようとして,グローバル競争で負けている例も多い。場合によってはコスト競争のために基準を変える知恵も必要ではないか。日本基準で10%品質を落としても,現地のニーズでは3%程度の差にしか体感されないといったことはありうる。すなわち,これまでの基準を素早くニーズに合わせて転換できるかどうかが問われる。それは,これから人口が増大するベース・オブ・ピラミッドの人たちへ訴求するため,市場やニーズに適合したイノベーションが必要になるということだ。 ■トレードオフの要素を調整する力量が必要
そもそもイノベーションは,全く新しいものではなく,これまでの技術やサービスの組み換えが多い。上記3つのハードルを越えるためには,「持続性と変化」「効率化と柔軟性」「品質と価格」のトレードオフの微妙なバランスをとることが求められる。こうしたバランスの取り方が実践の成功の可否を決定するのである。これらのバランストリマーがこれからのリーダーには求められる。
(月刊 人事マネジメント 2012年6月号 HR Short Message より)
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1960年,東京生まれ。大手物流会社を経て大手シンクタンクへ。大企業の事業部門、中小企業の経営企画,製造業および量販等の事業改革支援などを担当。2005年12月,フェリックス・パートナーズ鰍設立。「ミドルの力」に着目し,業績不振企業の再生支援と同時に,次世代経営者の育成にも力を入れている。2006年より立教大学大学院ビジネススクールで教鞭をとる。専門は,企業再生戦略,オペレーションマネジメント,ゼネラルマネジメント。著書に『再起力〜失敗に学ぶ 社員が団結し,実践する方法〜』(プレジデント)ほか。 >> フェリックス・パートナーズ株式会社 http://felix-partners.com |