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HR総合調査研究所(HRプロ) 主任研究員 松岡 仁

 新卒採用において,ここ数年「二極化」という言葉をよく聞く。とんとん拍子に複数の大手企業から内定をとる学生と,何社受験しても面接にすら辿りつけない学生との差が広がったことを指す「学生の二極化」。一方,多くの学生からプレエントリーが殺到する企業と,思うようにプレエントリーを獲得することができない企業との差も広がり,「企業の二極化」も起こっている。

■拡大する「ターゲット採用」

 ここでは,前者の「学生の二極化」を考えてみたい。「二極化」は,もちろん学生個々の資質の差によるものだが,「大学名」も大きな要素の1つだ。弊社では,毎年12月に採用担当者を対象とした新卒採用に関するアンケート調査を実施しており,そのなかに,独自の質問項目を設けている。それは,「貴社では採用戦略においてターゲット大学を設定し,特別の施策を講じていますか?」というものだ。ターゲット大学を設定した採用活動を「ターゲット採用」と呼び,その実施の有無を問うのである。
 2011年卒採用からの4年間の推移を見てみよう。11年卒採用では「ターゲット採用」を実施していると回答した企業は33%に過ぎなかったが,12年卒39%,13年卒48%と上昇し,14年卒ではついに52%と過半数を超える結果となったのである。
 「ターゲット採用」は,その大学からしか採用しない「指定校採用」とは限らない。質問項目の「特別の施策」とは,主にリクルーターの派遣やOB・OG懇談会の実施,学内企業セミナーへの参加などである。特定の大学に対して一般学生よりも「深いコミュニケーション」を働きかけ,優秀な応募者を確実に獲得していこうという動きといえる。
 ターゲットの選別は,就職ナビが登場するまでは,就職情報誌がその役割を担っていた。当時は偏差値上位校の学生だけにしか届かない情報誌(クラスメディア)が数多く存在した。それらクラスメディアにしか掲載しない企業は,上位校以外の学生の目に触れる機会が少なく,結果的に母集団のほとんどは上位校の学生で占められたのである。

■「採用実績校」の項目はなぜ消えた?

 現在の就職ナビに掲載されている企業情報の多くは,もともと就職情報誌に掲載されていた項目だ。ただし,当時ほぼすべての就職情報誌にあったものの,現在の就職ナビから消えているのが「採用実績校」の項目だ。2000年代に入り,ブロードバンドの普及とともに就職ナビ全盛時代を迎えるなかで,いつの間にか「採用実績校」の項目は消えていった。「インターネット=オープン」との概念から,すべての学生に対して(少なくとも表向きは)「公平に」対応すべきとの考え方が大勢を占め,指定校採用はおろか,ターゲット採用も“悪いこと”のような空気が蔓延していった。それが,ターゲット以外の学生に「自分にも就職できる可能性がある」との希望(誤解)を与え,非効率な就職活動を繰り返させる余地を作ってしまっている。また,企業側は玉石混交のプレエントリーが増え続けるなかで,本来の「選ぶ採用」から,単に「落とすだけの採用」に変容していかざるをえなくなってしまっている。
 かつて就職情報誌が主流だった時代,プレエントリー「資料請求はがき」が万単位に上る企業は,大手でも限られていた。今では一部の業種を除き,プレエントリーが1万件に満たない大手企業は少数派である(採用数わずか数十人にもかかわらず)。
 今こそ企業は「採用実績校」を開示すべきではないだろうか。そうすれば,就職活動を展開する学生を救うだけでなく,自らの採用活動も質を高め余裕を確保できるようになるはずだ。

(月刊 人事マネジメント 2013年2月号 HR Short Message より)

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松岡 仁 氏
金沢大学法学部卒業。文化放送ブレーンにて大手から中小企業まで幅広い企業の新卒採用コンサルティングを担当。その後、ソフトバンクヒューマンキャピタルにて転職サイト「イーキャリア」や「仁王」、文化放送キャリアパートナーズにて就職サイト「ブンナビ!」や文化放送ラジオ番組「就職戦士ブンナビ!」等の企画・運営を担当。現在は、人事関連の各種調査の企画設計および分析等を行う。

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