*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME

「強み/弱み」の把握は偏差値で

半蔵門オフィス 代表 南雲道朋

■強みとは「比較優位」のコンピテンシーのこと

 ジョブ型人事制度への転換が進んでいます。かつての成果主義導入ブームの時とは異なる文脈で,グローバル化やビジネスモデル転換の要請に応えるための人事の避けられない方向性として認識されています。それは,社員に対しては,真のキャリア自律を求めるものだといえるでしょう。そこで必要になるのが,社員1人ひとりが,「自身の強み/弱み」を認識することです。実際,「自分の強みを見つけよう」という掛け声は多く聞かれます。しかし,「強み/弱みとは何を意味するのか」について,コンセンサスが形成されているとはいえません。「強み/弱み」とは何でしょうか?
 強みとは,経済学でいう「比較優位」のコンピテンシーのことです。他者に任せられるものは任せて,「自身の生産性を最も高めることができる」仕事に注力することで,社会全体の生産性が高まるというのが経済学の考え方です。つまり,「適材適所」のジョブアサインによって組織の生産性が高まる,ということです。ここで,重要なのが,「他者と比較して,自分は相対的にどの能力や仕事において強みを有するのか」という視点です。では,例えば社員Aさんの「強みコンピテンシー」すなわち「比較優位コンピテンシー」を把握するためには,どうしたらよいでしょうか? それは,「点数順」ではなく「偏差値順」にコンピテンシーを並び替えることによって可能になります。

■「偏差値」「相対評価」の積極的活用を

 例えば,@目標設定,A優先順位判断,B影響力発揮,C完遂力,Dコンプライアンス,E組織感覚,F情報共有,G部下育成,H向上意欲,I創造的発想,という10個のコンピテンシー項目に関して,360度評価の結果が得られているとします。単純に点数順に並び替えるとしたら,多くの人の強みは「Dコンプライアンス」,弱みは「I創造的発想」となってしまうでしょう。そこで,すべての点数をいったん偏差値化するのです。偏差値とは全体平均(例えば全社平均)からどれくらい離れているかを表す指標で,計算方法は難しくありません。そして,偏差値順に項目を並び替えると,そこにはまさに,「Aさんの強み/弱み」が現れます。
 さらに,自分で見た(自己評価の)偏差値順と,他者から見た(他者評価の)偏差値順とを比較して,「強み/弱み」の自己認識を調整することによって,組織における自身の強みを正しく認識する,すなわち自分の軸を作ることができます。例えば,組織リーダーを目指すAさんの自己評価による強みコンピテンシー3つは「@目標設定,A優先順位判断,B影響力発揮」であったのに対して,他者評価による強みコンピテンシー3つは「F情報共有,G部下育成,H向上意欲」であったなどニュアンスの異なる結果になってしまう現象はしばしば起こりえます。この違いに向き合い,かつ,他者評価によって明らかになった自分の弱み・盲点(例えば「自分の理想に拘泥しすぎて『E組織感覚』が乏しい」等)についても向き合うことで,自分はどのコンピテンシーの発揮に注力すれば組織価値を最大化できるのかが見えてきます。
 このような偏差値の活用は,「相対評価」を突き詰めることにほかなりません。かつての成果主義の文脈では,達成基準に照らした絶対評価が正義とされ,相対評価は便宜的な手段として脇に追いやられがちでした。今,注目されているジョブ型人事は,相対評価を積極的に活用して1人ひとりの「強み/弱み」を可視化させることで,スムーズに推進できるかもしれません。

(月刊 人事マネジメント 2021年5月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
東京大学法学部卒、日系大手電気通信メーカーのソフトウエア開発企画部門に勤務後、外資系コンサルティング会社にて現場再生のコンサルティングに従事。その後、マーサージャパ ン、HRアドバンテージ、トランストラクチャなどにおいて人事・組織に関するコンサルテ ィングや関連するウェブソリューション開発をリード。著書に『多元的ネットワーク社会の 組織と人事』『チームを活性化し人材を育てる 360度フィードバック』『データ主導の人材開発・組織開発マニュアル』など。情報処理学会 会員。

>> 半蔵門オフィス
 http://hanzomon-office.net