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社会課題の現場へ越境学習のすすめ

一般社団法人RCF 代表理事 藤沢 烈

 社会の激変に伴い,企業の人材育成も変わりつつあります。正解のない不確実な時代において,事業を変革・創造していくことができる人材,自分の軸を持ち自ら成長していくことができる人材の育成が大きな課題となっています。

■「社会課題の現場」が人材育成の場に

 経済産業省教育産業室では,これからの時代に求められる人材を「課題解決型のチェンジ・メーカー」と整理し,2018年より新たな人材育成プログラムの開発・実証を行ってきました。ビジネスパーソンを社会課題の現場(社会課題の解決に取り組む地方やNPO等)に派遣し,日常の職場とは全く異なる環境で正解のない課題解決に取り組むプログラムです。参加者からは,「自分の軸を再発見できた」「不確実な時代を切り拓くリーダーとしての成長を実感できた」といった声が聞かれました。
 私たちRCFがこの取り組みに参画したのは,「現実の社会課題解決に取り組むことで人は育つ」との仮説に至った経験が関係します。RCFは,被災地の復興支援を主軸に社会課題を解決する事業を行っています。復興のために企業から被災地に赴任してこられた方々と接するなかで,この経験はビジネスパーソンがキャリアやスキルを深めるのに最適だと考えるようになりました。これは,近年人材育成の手法として注目されている「越境学習」の効果といえます。今後,企業も越境学習を人材育成として積極的に取り入れていくべきだと考えます。
●越境学習への期待@:イノベーション人材育成
 越境学習とは,所属する組織の枠を越え(越境して)学ぶことです。法政大学大学院の石山恒貴教授によれば,「自分にとってのホームとアウェイを行き来することによる学び」です。越境学習に先進的に取り組む日本電気鰍ナは,2013年にインドの社会課題の現場に越境したマネジャーが,2020年にインドの社会課題解決に貢献する新事業の立ち上げに成功しています。実現にあたっては様々な障害・苦労があったそうですが,越境での大きな原体験が支えになったそうです。越境すると,自分が持つ暗黙の前提や価値観が通じないアウェイの環境に置かれます。そこで,社会のためという大義に向き合うことを通じて課題認識を見直したり,自社のビジネスに留まらず社会課題に関心を広げたりするようになります。そのような経験を経て,不確実な状況においても自ら課題を設定し,アイデアの実現に向けて粘り強く取り組む力が身につくのです。
●越境学習への期待A:キャリア自律
 アウェイの環境によって自分自身の軸に気づくことは,キャリア自律につながります。変化にうまく対応するキャリア理論「プロティアンキャリア」では,変化対応力だけではなく,自分の大事にしている価値観が重要だといわれています。(株)ニトリホールディングスでは,個人の自律が組織の成長につながると考え,積極的に越境を推進しています。組織の未来の形と,個人の価値観や好奇心を言語化し,それらをつなぐためには社内外での越境が有効だと考えているのです。自分の価値観ややりたいこと,強みや弱みを認識するためには,アウェイの環境下で生まれる「葛藤」が重要です。葛藤しながら行動することで,自分を客観的に振り返り,強みや軸となる価値観を捉え直すことにつながるのです。
 社会課題の現場への越境学習については,経産省特設ウェブサイトに詳細をまとめています。現在はオンラインで越境できるモデルプログラムも生まれています。これからの時代にあった人材育成をお考えの方は,ぜひご覧いただければ幸いです。
→ https://www.learning-innovation.go.jp/recurrent/

(月刊 人事マネジメント 2021年4月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
1975年京都府生まれ。一橋大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立し、NPO・社会事業等に特化したコンサルティング会社を経営。東日本大震災後、内閣官房防災ボランティア連携室勤務を経てRCF復興支援チーム(現・一般社団法人RCF)を設立し、「社会の課題から、未来の価値をつくり続ける社会」というビジョンのもと、災害復興に関する情報分析や事業創造に取り組む。現在は、全国での復興事業及び地方創生事業を、行政や企業など多様なセクターとの連携を通じ展開している。著書に『社会のために働く 未来の仕事とリーダーが生まれる現場』(講談社)、『人生100年時代の国家戦略』(東洋経済新報社)がある。

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