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人事制度「脱・精緻化」のすすめ

コォ・マネジメント(株) 代表取締役 窪田 司

 昨今,中小企業や人材サービス会社から人事制度に関する相談が増加しています。2023年に入ってからも「ジョブ型」をはじめ人事制度に関する話題が新聞紙面などで盛んに取り上げられるため,注目度が高まっているのだと考えられます。また,働き方改革や世代間ギャップなど,従来の人事のあり方では通用しにくくなっている社会背景もあるかもしれません。

■制度は「精緻化」ではなく「簡素化」を

 人事制度の見直しを考えるときに多くの企業は情報収集に励みます。その際,より良いものをと考えるのは人事責任者,人事担当者として当たり前だと思います。そして,すべてを網羅しようとすればするほど,より精緻な人事制度が必要だと思い込みがちです。しかし,中小企業で従業員インタビューを実施してみると,人事制度(等級制度・評価制度・賃金制度)に精通している従業員は少ないのです。現行制度でも理解が追いついていない状況で,さらに複雑な人事制度に改定して社内に浸透するでしょうか。人事制度の運用面で理解されていない,活用されていない企業においては,精緻化よりもむしろ簡素化が必要でしょう。
 私はコンサルティングの現場で,「それを御社の社員の方が理解して運用できるイメージがありますか?」と問うことがあります。現状では運用できないから簡素化しましょうという乱暴な話ではなく,複雑な制度が逆効果になってしまう例も多いという意味です。私自身,地域金融機関に勤務し評価制度の情報収集をしていた際に,大きな金融機関の精緻な評価制度に憧れて提案したことがあるのですが,「運用できないから」という理由で検討すらされませんでした。つまり,精緻だから良いのではなく,精緻でも使えないものは無用の長物になってしまうということです。
 では,どのように見直せばよいのでしょうか。まずは,現行の問題点を明確にすることです。現行の人事制度に大きな問題もなく,従業員も理解し,満足しているのであれば,そもそも見直す必要があるのかどうかから再検討する必要があります。人事制度は,社会の風潮に流されて見直すものではなく,明確な目的を持って見直すべきです。

■制度策定よりも制度運用に注力を

 人事制度を導入・見直す際には,制度策定に多くの時間と資金を費やします。しかし,中小企業の現場で起きている問題は,制度の不具合に起因するものではなく,運用の不十分さが引き起こしている場合も多いのです。例えば,人事制度導入のタイミングでは説明会などを実施しても,その後は何のガイドも研修もなく,マニュアル等の修正も行われず,次第に実態と乖離した人事制度になり,形骸化していくケースはよくあります。本来は,人事制度を策定するときに運用のシミュレーションを行い,当社の社員に受け入れられるのかどうか,形骸化させないために何をしていくのか等を検討しておくことが望ましいといえます。私の師は,「人事制度は策定と同等に運用に注力することが必要」と強調しており,経験を通じてその重要性を感じています。
 先日,人事制度の見直し案件でコンペがありました。競合先はジョブ型の人事制度をプレゼンし,ジョブディスクリプション(JD)を全職種で策定しましょうとの提案でした。そこで人事制度導入後のJDのメンテナンスについて確認すると,経営陣の方が返答に窮してしまったのは印象的でした。
 人事制度は,精緻化された制度のみが自社にとって良いとは限りません。今一度自社にとって必要な人事制度の姿から考え直してはいかがでしょうか。

(月刊 人事マネジメント 2023年9月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
1983年岡山生まれ。地域金融機関の経営企画部門で店舗分析など組織戦略を5年間担当し,中小企業診断士を取得。史上最速での昇進を果たした後,人事部門に異動。2014年独立。地方中小企業の「専門性」と「関係性」を明確化する専門家として,「中小企業をリフレーミングする3つの技術」をベースに,人事・組織・採用についてのコンサルティングを展開中。人事分野においてはのべ500社以上の中小企業をサポートし,新卒採用人数3.5倍,離職率1/6など多くの成功事例を持つ。主著に『「化ける人材」採用の成功戦略』(スタンダーズ・プレス)。寄稿「採用ニッチ戦略の進め方」(月刊 人事マネジメント2022年6月号・特集HRガイド)ほか。

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