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書評 2018.02

社員の多様なニーズに応える社内規程のつくり方

 誤解を恐れずにいえば,本書は一般によくある“労務管理規定集”では全くない。確かに「役割等級制度」「目標管理制度」「行動評価制度」等の従来型人事制度の体系を支える諸規程も含まれてはいるが,むしろ,まだ普及していないユニークで斬新な人事制度にウェイトを置き,その運用を支援する規程モデルを集大成した1冊と理解したほうが正確だ。いわゆる働き方改革を前提に,早晩対応が必要な「雇用延長制度」「限定正社員制度」等は当然,「ノー残業デー制度」「在宅勤務制度」「フリーアドレス制度」「一定時間こもり作業制度」といった生産性向上を後押しする諸制度にも目配りが利いている。働き方の幅を広げる趣旨からは「社内フリーエージェント制」「副業許可制」も検討対象に挙げられ,一方,取り組みが容易そうなものでは部門の壁を取り払う「ランチミーティング制度」といった仕掛けも解説されている。社風形成を促進する「クレド委員会制度」「『ありがとう』運動制度」も課題を抱える企業にとっては関心の高いテーマだろう。

●著者:(有)人事・労務  ●発行:日本法令/2017年12月20日
●体裁:四六版/398頁  ●定価:2,800円(税別)

悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?

 採用面接のべ2万人,コンサルティング先100社以上の豊富な経験をベースに,人事のプロが“逆説のマネジメント”を語っている。「働きやすい職場」「リーダーシップ」「人材採用」「人材育成」「人間関係」「組織マネジメント」の6項目につき,あえて通説と異なる論点を打ち立て,人事の真実を探っていく筆運びが楽しい。例えば「風通しのいい社風」では(誰でも気軽に意見が言えるメリットは認めながらも)不勉強なシロウトの発言に振り回されるリスクを懸念する。また,「仕事の教え方」では,デキる人であっても口に出して説明すると間違える(適切に表現できない)ケースがあるので,黙って盗んでもらったほうが正確に伝承されると述べている。人を見抜く極意は発言ではなく行動に着眼することだと説き,相手に合わせて心にもないことを口にする「善人」は利己的であり不要な人材だと見なす一方,周囲に嫌われても動じず,思った通りに発言し信念に従って行動する「悪人」は,変革の原動力となる必要な人材だと,冴えた考察を展開している。

●著者:曽和利光  ●発行:星海社/2017年12月20日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:960円(税別)

働く女子のキャリア格差

 組織マネジメントを研究する著者は,勉強会「育休プチMBA」を運営し,約4,000人の母親たちと接してきたという。出産を機にキャリアを中断するケースが多い現実にあっても,職場復帰後にパフォーマンスを上げる人はいると語り,本書では育児と仕事の両立をテーマに,個人と組織の課題を整理し,解決の道筋を探っている。育休明けの意欲低下問題では,職場環境に起因する相互不信があると見て,上司と本人が直接意思確認する場を求める。同様に「女性は管理職になりたがらない」という通説では,当事者たちの真意を汲み,「今の環境では自信がないだけ」と認識の差を解き明かす。また,昇進機会のない職場では権利主張者を量産させるリスクがあると指摘し,会社にはキャリアルートの明示と女性が業務責任を果たせる環境整備を訴える。一方,女性たちにも,知識・スキルの習得や1人でがんばらない工夫を問いかけ,「何となくマミートラックの選択」ではなく「今すぐフルタイム復帰の決意」をアピールするよう前向きな覚悟を迫っている。

●著者:国保祥子  ●発行:筑摩書房/2018年1月10日
●体裁:新書版/235頁  ●定価:800円(税別)

ラクして速いが一番すごい

 ビジネスパーソン向けにスマートな働き方をレクチャーした1冊。まず興味深いのは,著者自身の立ち位置だ。24年にわたる人事コンサルティングで600社の人事に関与, 5万人のリストラと6,000人の選抜を手がけてきたと振り返り,その5万人と6,000人の差を本書に明らかにしている。例えば,“現状の延長でがんばる人”は限界に達する一方,“ゴールを決めて実現を目指す人”は伸びると説く。さらに,選抜される人材は,関係者を巻き込む術を知っていると指摘し,自分がラクをするために他者に仕事をなすりつけるのではなく「皆のために」「得意な人に」やってもらうロジックを見出して,組織・人間関係をコントロールしていると注目点を示す。提案が抵抗にあった場合に,ホンネの人間関係を図式化した裏の組織図(リレーションマップ)を用いて真のキーマンに働きかけたり,役員を連れてきて説得を試みたりする「水戸黄門作戦」なる手法も紹介。人事から公式に推奨はしにくいもののデキる社員には身につけてほしい知恵の数々を盛り込んでいる。

●著者:松本利明  ●発行:ダイヤモンド社/2018年1月17日
●体裁:四六版/223頁  ●定価:1,500円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki