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書評 2018.03

半年だけ働く。

 外資系コンサルティング勤務を経て独立。約半年で1年分を稼ぎ,残りの月日は「旅人」という生活を10年続けてきた著者は,その実体験に則して働き方の1つのモデルを提案している(厳密に半年単位ではなく「9ヵ月働き・3ヵ月休み」あるいは「週3日勤務・週4日休み」というサイクルも含む)。緻密な事業計画を練って独立する必要はなく「自由でいたい」という動機を優先した決断で構わないと,柔軟な生き方を示唆。加えて,仕事のニーズと高単価で売れるスキルの関係,また,健康な心身・楽観的思考などフリーランスに向いている人の特性,コンサル業界や医療業界の外部人材活用事情等も明らかにしている。生活全般では,スーツケースに入らない物は買わない,書籍も手帳も時計も持たないミニマムにしてデジタルな暮らし方とともに,ご自身の貯金残高の推移も公開している。普通の会社員には極端にも映るが,その「普通」が崩れはじめた今,副業解禁などの動きも拡大していくとすれば,あながち特殊な働き方ではないのかもしれない。

●著者:村上アシシ  ●発行:朝日新聞出版/2017年12月30日
●体裁:四六版/224頁  ●定価:1,400円(税別)

社員が成長するシンプルな給与制度のつくり方

 人材の採用も定着も「社員が安心して仕事に専念できる評価制度」と「評価が正しく処遇に反映できる賃金・人事制度」があってこそ,という前提で,本書にはあえて骨太でオーソドックスな制度設計が解説されている。職務・役割・職責を反映させた責任等級制,号俸で整理した基本給,適正に差のつく昇給制度・昇給ルール,最低限のシンプルな手当制度,評価基準書に則った評価制度,メリハリのある賞与制度,等で構成・運用する(人事担当者にとってはおなじみの)仕組みだ。定昇では単年で大きな差をつけず,逆転の可能性を持たせてやる気を支える仕組みにするなど現場目線の知恵もにじむ。人事制度の基本ができていれば,経営者はむやみに人件費を心配する必要はないし,社員もキャリアの先を見据えて落ち着いて仕事に取り組めるようになる。人事制度が存在しない・機能していない会社はもちろん,変更調整を重ねて複雑な運用を強いられている会社にとっても,基本に立ち返って確認できるという意味で手元に置いておきたい教科書といえるだろう。

●著者:大槻幸雄  ●発行:あさ出版/2018年1月22日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,600円(税別)

性格スキル

 人材の採用・登用で問われる学歴・学力以外の要素,すなわち人物評価への関心から,心理学でいう5つの因子「ビッグ・ファイブ」に注目する著者は,「性格スキル」と言い換え,かみ砕いた解説を本書に綴っている。@開放性,A真面目さ,B外向性,C協調性,D精神的安定性,の5つの概念を紹介したうえで,それら性格スキルが,職業人生や健康・寿命,犯罪,学業等に影響する相関を,内外の研究成果を介して明らかにしている。さらに,性格スキルの高さが職業人生の充実に正比例する関係を押さえたうえで,かつての日本型雇用制度(メンバーシップ)やOJTとは親和性があったはずだと考察。対して,1990年以降は成果主義への傾斜やブラック企業リスク回避から,性格スキルを高める視点が弱くなったのではないかと疑う。記述表現,題材選択を含めて分かりやすさ抜群であると同時に随所に挿入されたコラムも面白く,特に,1970年前後のスポ根アニメから「やり抜く力」が希望や楽観の有無にかかっている因果を読み解くくだりは秀逸に思われる。

●著者:鶴光太郎  ●発行:祥伝社/2018年2月10日
●体裁:新書版/223頁  ●定価:800円(税別)

サラリーマンの力

 アルバイトから社長(その後相談役)まで44年間ニッポン放送に勤務してきた著者が,半生を振り返りつつ仕事観を語った1冊。人気DJ時代をはじめ,経営史に残るような事件・騒動も当事者の体験談として綴られていて,読む側は“あれはそういうことだったのか”といちいち腹落ちする。フリーへの誘いが来たときは「今が絶頂」と受け止め,以後真面目なサラリーマンを目指す決意をしたという。その決断があったから,1人ではなしえない大きな仕事も達成できたと述懐。サラリーマンは会社を使ってやりたい仕事ができる立場だと再認識を迫り,若手には「まずは,ちゃんとした歯車になろう」と諭す。そのうえで,企画力と営業力を磨き,自ら手を挙げて会社にやりたいことをアピールしていく姿勢は基本だとも述べている。ヘッジファンドとサラリーマン社長,上司のあり方,出世競争の考え方など,経営・人事分野の話題も興味は尽きないが,深夜放送を知る読者なら,会いたかった人から聞きたかった話をうかがえたような充足感を覚えるはずだ。

●著者:亀渕昭信  ●発行:集英社インターナショナル/2018年2月12日
●体裁:新書版/191頁  ●定価:700円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki