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書評 2019.05

会社員が消える

 AIやロボットの進化に伴って,人の働き方と会社組織がどう変わっていくかを探った論考。デジタライゼーションが進むと,中長期的には雇用による人材の丸抱えではなく,アウトソーシングによる水平的なネットワーク(プロジェクト単位での離合集散)機能が残るだけになり,段階的に“社員不要”に向かうと著者は見ている。働き手は,独立したプロ人材としてICTを活かしてネットワークに参加し,価値を生み出していく役割となり,やはり会社に属する意味が薄れていく関係を描き出している。その過程では,法学者の立場から,デジタライゼーションと労働法の齟齬も指摘。今,モバイルワーク・テレワークの普及を妨げているのは時間管理・健康管理の法の縛りではないかと疑い,プロ人材がもっと自由に働けるようにホワイトカラーエグゼンプションのさらなる拡大・容認を示唆する。日本型雇用システムと,工場労働を前提とした労働法の限界を整理するとともに,働き手には人生を自分でコントロールする「時間主権」を取り戻せと訴えている。

●著者:大内伸哉  ●発行:文藝春秋/2019年2月20日
●体裁:新書版/240頁  ●定価:800円(税別)

モチベーション・ドリブン

 「個人と企業の関係は“One for All, All for One”に集約される」という前提に立つとき,働く人たちの多様化・複雑化が進む今こそ“for All”の束ねを確実に押さえておく必要があると著者は警告する。“for One”に偏重した働き方改革を進めると,組織は崩れ,取り返しがつかなくなると負の側面に着目した視点は秀逸だ。例えば,ノー残業デーやプレミアムフライデーを設けても,その日どうしても忙しい現場は生産性を下げるか闇残業をするかしかなく,策は裏目に出ると指摘。また,女性管理職比率を目標値に掲げても,そもそも管理職になることが活躍なのかと疑う。完全フリーアドレス制を導入した結果,誰がどこにいるか分からなくなる非効率が拡大した自社での失敗談も語りながら,多様化と統合の両立策を探っている。突き詰めると,その鍵はエンゲージメントに行き着くとして,数々の社内コミュニケーションへの投資,16の要素(64のポイント)による指標化,期待度と満足度による4象限での分析等,実践事例を踏まえた打ち手を提案している。

●著者:小笹芳央  ●発行:KADOKAWA/2019年3月22日
●体裁:四六版/224頁  ●定価:1,400円(税別)

採用に強い会社は何をしているか

 52の採用手法(1社複数事例含む)をベースに人材獲得の原理原則と採用担当者のスキル・マインドを整理したガイドブック。@「出会う」,A「見立てる」,B「結ばれる」,という3段階のプロセスに沿って体系的な解説を進め,最終章「採用担当者に必要な技術と魂」では,担当者が発揮すべき21の行動指針,および52のチェックリストを載せている。ともあれ本書の特徴は資料性に尽きる。単に企業事例を順番に並べる構成ではなく,採用計画のキーとなる要素を分析的に抽出し実務プロセスに即して各社のオイシイところ(WEB画面,説明用冊子,来場者ノベルティ,求人広告誌面,スカウト文面など)を現物で編集しているので,現場を知る読者ほど戦略マニュアルとして参考余地の大きい仕上がりに納得するはずだ。応募者の潜在的な欲求と採用広告のアピールポイントの相関,ターゲットがエントリーしやすい仕掛け,本気の人だけに応募してもらう戦略,等,注目のコンテンツも満載で,眺めるだけでもキャッチをひねり出すヒントになりそう。

●著者:青田 努  ●発行:ダイヤモンド社/2019年4月10日
●体裁:四六版/215頁  ●定価:1,700円(税別)

頑張りすぎるあなたのための会社を休む練習

 体調が悪くても「今日,休みます」と言えない心理構造を掘り下げ,改めて勤労者の権利行使を促す1冊。職場の空気,仕事への自負,処遇の不利益等を案じる余り有休取得に罪の意識を感じ“休みたいのに休めない”心のブロックを脳の仕組みから解き明かすアプローチが興味深い。休暇申請をためらう心の正体は,無意識に刷り込まれた価値観(サボってはいけない,迷惑をかけてはいけない,出世に傷がついてはいけない,等)や過去の記憶(上司に怒られた,同僚から嫌味を言われた,同僚が休んでひどい扱いを受けた,等)にあるとし,不要な価値観を捨て去る方法を伝授する。ただ,安全・安心・現状維持を求めるバイアスは強固ゆえに,強い意思を持って自らの潜在意識を味方に付けていくプロセスが不可欠だとも語る。「休みます」と言えるように「人生どうしたいのか」までを考え抜き,20年後のあるべき姿を想定して「あのときの行動(休暇届を出す)」を振り返る思考訓練法も提案。滑稽さと紙一重のところでシリアスな記述を貫いている。

●著者:志村和久  ●発行:イースト・プレス/2019年4月15日
●体裁:四六版/192頁  ●定価:1,300円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki