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書評 2019.07

同一労働同一賃金の基本給の設計例と諸手当への対応

 「同一労働同一賃金」というと,ややもすると職務給への一本化を想像するかもしれないが,働き方改革関連法では「合理的理由のない処遇格差の禁止」を求めているのであって,解釈には幅があり,実務への反映は難度が高いと著者は指摘する。正規・非正規の立場の違いで基本給や各種手当の有無・額に相違があるのは構わないが,「合理的理由」を説明できる設計かどうかが問われるとし,厚労省のガイドラインに沿った読み解きを展開している。現実的な課題では,例えば「扶養家族のいる従業員への家族手当は正規・非正規で支給・不支給の差が認められるのか?」との問いを立て,個々の経営状況と労使の話し合いの余地までを探る。前半の解説編に続く後半では25項目のケーススタディ(Q&A)を載せ,基本給・諸手当・賞与・福利厚生・研修機会等の扱い方と注意点を詳述している。「同一労働同一賃金」は2020年開始の切迫した案件であり,法対応および労使の納得いく制度設計を進めるうえでの論点整理に活用しがいのあるタイムリーな資料だ。

●著者:佐藤 純  ●発行:日本生産性本部/2019年4月25日
●体裁:四六版/203頁  ●定価:2,000円(税別)

改訂 チームビルディングの技術

 俊敏な変化対応が求められる今の時代には,事案ごと,問題解決のステップごとにそれぞれ適任のリーダーを立てる組織戦略が望まれるとの認識で,本書は誰もが身に付けるべき技術「チームビルディング」を解説している。チームワークとは“仲良くする”ことではなく“結果を出すことに協力する”意識と行動だとも言い当て,1人ひとりには自律したプロ人材の役回りを求めている。チーム組成では「立ち上げ期(同床異夢)」「混乱期(ケンカ)」「平常化(個々の得意分野を相互に認める)」というプロセスを経るものだと割り切って捉え,とりわけ混乱期の乗り越え方に重要な意味があるとも語る。研修,スポーツ,歴史・戦記等を題材に著者ご自身の体験談も織り交ぜながら3編18のトピックを整理。論理的で歯切れのいい記述で貫かれているので読者は“腑に落ちる心地よさ”を覚えながら一気に読めるはずだ。働き方改革の効率を支える組織スキル,人生100年時代のキャリアを支える個人スキルの両面から「チームビルディング」は改めて注目されそう。

●著者:関島康雄  ●発行:経団連出版/2019年5月10日
●体裁:四六版/205頁  ●定価:1,500円(税別)

なぜ最近の若者は突然辞めるのか

 “若者は何を考えているのか分からない”とオトナ(上司・先輩)が疲弊してしまうくらいなら,彼らを理解して有効策を打てばいいのではないかと著者は提案する。書籍タイトルこそ離職問題を象徴しているものの,本書のコンテンツボリュームは,SNSというムラ社会を分析し,若者の深層心理を探る試みにある。オトナは情報伝達の道具としてSNSを扱うのに対し,若者は常時接続がデフォルト(SNSの住人)だと捉え,彼らの投稿から「意味を追求」「ムダを排除」「炎上を回避」「他人と比較(自分を確かめる)」といった特徴を抽出している。さらに「認めてほしいけれど皆の前で称賛されるのは困る」「“考えさせる”とか無駄だから,合理的に先に教えてほしい」といった職場の言動に重ねて類型化。オトナが若者に向き合う主な有効策を3点(@上から目線ではないフラット目線,A1人ひとりを意識した個人レベルの対応,Bレスポンスの重要性)に集約し,心理的安全性を確保したうえで内発的動機を刺激するという王道の接し方をアドバイスしている。

●著者:平賀充記  ●発行:アスコム/2019年6月3日
●体裁:四六版/206頁  ●定価:1,400円(税別)

連鎖退職

 「あの人も辞めた」「先輩も同期もどんどん辞めている」という状況から“早く辞めたほうがよさそうだ”という空気が支配的となり次々と社員が退職していく「連鎖退職」を考察した1冊。当事者・人事担当者たちの肉声を拾い,リアリティあふれる資料から冷静に真相に迫る記述が興味深い。連鎖退職には,@ドミノ倒し型とA蟻の一穴型の2種類があると分析。前者は,1人欠けることで残ったメンバーに負荷がかかり,さらなる退職を誘発させるのに対し,後者は,1人の退職をきかっけに潜在化していた職場の不満が顕在化し,次々に退職者が出る状況を指摘している。さらに,連鎖退職が起きやすい環境,しやすい人の傾向を捉え直し,後半には予防策をまとめている。ポイントは“簡単に辞めないほうがトク”という環境作りであり,学習機会の提供や日頃からキャリアのすり合わせができる関係の構築等を挙げている。また,サクセッションプランがあればキーマンが辞めても連鎖は押さえ込めるとも述べ,総合的な取り組みの方向性を示唆している。

●著者:山本 寛  ●発行:日本経済新聞出版社/2019年6月10日
●体裁:新書版/215頁  ●定価:850円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki