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書評 2019.08

定年をどう生きるか

 「定年」に伴う不安の正体に迫り,生き方のヒントを模索する論考。アドラーや三木清の哲学に触れつつ,読者に価値観の再考を促している。「定年」は会社組織から切り離され,学歴や役職の意味が失われる瞬間であるという前提に立つと,所属を失って誰からも注目されなくなる恐怖心が芽生え,不安が引き起こされると著者は見ている。しかし,退職・減給・病気・老化といった変化は善悪とは関係がなく,プラスでもマイナスでもないと諭し,初めから成功(量)を追わず,幸福(質)に価値を置く人は,定年を前後しても生き方は変わらず,慌てる必要もないだろうと推量する。本書は,いわゆるビジネス書にありがちな「人生設計」を勧めていない。それをすると人生が常に「準備期間」になってしまうから,というのが理由だ。「怠けず活動しなければ」と焦るのも,過去を後悔するのも,未来を不安に思うのも幻影にとらわれているだけだと指摘し,「今の存在を生き切れ」と導く。結論はシンプルながら,腹落ちには相当の覚悟が求められそう。

●著者:岸見一郎  ●発行:SBクリエイティブ/2019年6月15日
●体裁:新書版/208頁  ●定価:830円(税別)

労働法入門 新版

 ナポレオン法典(仏)や産業革命(英)を受け継ぐ欧米の労働法と比較しながら,日本の労働法の歴史と現在を歯切れ良く解説した入門書だ。日本の労働法は,長期雇用・正社員中心の構造的事情から「解雇権濫用の法理」に手厚いと指摘し,功罪両面を考察している。1980年以降の動向では,働き手が個別化してきた現実に対し,工場労働を前提とした法体系が齟齬を来しはじめたと見て,「働き方改革」に至る背景を整理している。さらに未来の見通しでは,@集団労働者対策から個人労働者支援への動き(契約ルールや紛争解決等),A国家による強制力で弊害を是正していく動き(労働時間規制,同一労働同一賃金等)の両面で改革が進むと予測。国家と個人の中間にある集団(古くは組合,新しくは非営利団体など)の役割も注目点に挙げている。「採用・人事・解雇」「賃金・労働時間・健康」「労働市場」「労使関係」といった各章の導入部では,著者の個人的体験や社会事象への感想が語られ,題材の難解さを緩和する配慮もうかがえて想定外に面白く読める。

●著者:水町勇一郎  ●発行:岩波書店/2019年6月20日
●体裁:新書版/253頁  ●定価:860円(税別)

さらば! サラリーマン

 脱サラして起業した老若男女の物語を淡々と追ったドキュメント集。「起業の夢を実現する」「故郷で第二の人生を」「職人として生きる」「趣味を活かす」「人の役に立ちたい」の5章に区切り,各8事例,計40名の半生をレポートしている。「あえて成功ノウハウを抽出する必要はない」と著者が言い添える通り,“成功原則なんてない”というのが時代の特徴なのかもしれない。少なくとも本書の事例では,準備万端,事業計画をしっかり練って,というストーリーは少数派だ。心理的に不活性な状態や不運の続くプレ体験があって,しかしそのモラトリアム期間に何かを蓄積していて,ふとした縁を契機に潜在能力が開花し,出たとこ勝負を重ねて今日まで乗り切っているという軌跡が典型的なパターン。場当たりに見えて,実は決断力や柔軟な対応力は相当に鍛えられているともいえる。「設備も人材も泥縄式対応を基本とする」と社内冊子に明記した会社すらある。不確定要素が大きい環境では,構えすぎないキャリアが結果的に成功する事実を素直に受け止めたい。

●著者:溝口 敦  ●発行:文藝春秋/2019年6月20日
●体裁:新書版/281頁  ●定価:850円(税別)

雇用改革のファンファーレ「働き方改革」,その先へ

 労働分野の知見豊富な弁護士である著者は,今の労働法は「昭和のルール」のまま止まっていると述べ,新しい雇用社会のグランドデザインを描くために議論が必要だと熱く語っている。正規・非正規間の格差,働き方の多様化と新卒一括採用の矛盾,定年後再雇用と人件費配分の限界,長時間労働の抑制と生産性・雇用管理の乖離など,顕在化しつつある諸問題を挙げて,現状の労働法では個々の働く人々をカバーしきれない危うさを前半で指摘。そのうえで,後半では,@雇用社会,A法律・国家制度,B企業,C働く人,の4つの視点から雇用改革の方向性を探っている。1社ではなく社会全体での終身雇用の可能性,リカレント・WLBも含む流動性の促進,フリーランスの所得保障・社会保障,手続き業務に留まらない人事の役割(納得感に配慮した戦略的施策運営等),働き手のキャリア自律といった着目点を示し,あるべき労働法の枠組みを模索している。HR分野で活躍するキーパーソン6名との対談を収録した最終章も要注目のコンテンツだ。

●著者:倉重公太朗  ●発行:労働調査会/2019年7月7日
●体裁:四六版/296頁  ●定価:1,800円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki





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