書評 2021.07
一流の人は知っているハラスメントの壁
ハラスメントを恐れて部下を叱れない管理者に向け,職場の人間関係から解き明かしてくれる1冊。部下育成・組織コンサルタントとして活躍する著者は,かつてはハラスメント型のコミュニケーションをとり,3回の降格人事も経験したと会社員時代の過去を明かす。その反省も踏まえ,様々な角度から部下への接し方を考察。その言動がハラスメントに該当するかどうかは受け手によるという構造に行き着き,問われるのは日頃の信頼関係だとの確信を得て,話の聞き方,仕事の頼み方,リモートでの接し方などの場面別に,極めて具体的なセリフを挙げてノウハウを整理している。例えば,親しくなろうとプライベートのSNSに絡むのはNG,優秀な人だからと任せきっていると離職される,相手の話を聞く際は“正論を教えてやろう”と構えたり,「なぜ」を繰り返して圧迫になったりしてもいけないと,細かい。リモートでは性善説(放任)でも性悪説(管理)でもなく“性弱説”で寄り添うスタンスを提案するなど,今どきの事情に配慮された記述も役立ちそうだ。
●著者:吉田幸弘 ●発行:KKロングセラーズ
●発行日:2021年4月1日 ●体裁:新書版/244頁
ジョブ型と課長の仕事
組織の中核を担う課長級社員の役割自覚と行動変容を促すテキストブックの仕上がりだが,内容は普遍的かつ良心的で,挑戦的な要素も凝縮されている。イノベーションは辺境(フロンティア)から発生するので社長には期待できないと割り切り,主役である課長に奮起を迫り,タスク(機械的物理的作業)とジョブ(付加価値創造と貢献)の違い,チームと集団の違いを解説していく。書名に掲げられた「ジョブ型」を巡っては,ジョブディスクリプションと業務分掌規定のサンプルを比較しながら設計思想の相違点を明らかにする。また,ジョブディスクリプションの具体的な運用では,上司・部下・同僚と共有し,メンバーのジョブも共に作り込むプロセスを推奨している。さらに内省・教養の重要性に踏み込み,「富の格差を広げるようなビジネスに手を貸さず,社会のためにどう役立っているかを考えよ」と戒める一方,使命感や義務感だけでは長く続かず,個性を活かして好きなことをやってこそだと,ジョブ型の可能性に重ねて展望を示している。
●著者:綱島邦夫 ●発行:日本能率協会マネジメントセンター
●発行日:2021年5月20日 ●体裁:四六版/271頁
そのまま使えるオンラインの“場づくり”アイデア帳
本書に紹介されているワークショップ施策は「アイスブレイク編」「組織編」「アイデア・課題編」「リフレクション編」の4章・計30項目にわたる。いずれもオンラインでファシリテーターがセッションの場をコントロールしていくプログラム設計だ(Zoom利用を想定)。例えば,アイスブレイクでは集合研修の雑談に代えて,オンライン待機時間用に「いたずら書き」のウォールを用意しスタートの敷居を低くしておく。組織強化ではオンライン表彰式を開催し,エンゲージメントの向上と受賞者のノウハウ・ナレッジを共有する機会にする。各セッションとも進め方のステップと典型的なセリフを載せ,クロージングまでの運用イメージの把握を助けてくれている。Q&Aではオンラインで盛り上げる方法の他,ブレイクルームにファシリテーターは入るべきか否か両論の考察も載せていて興味深い。パンデミックの収束にかかわらずオンライン研修が標準化していく今後を考えれば,ファシリテーションの手法も幅を広げる好機であり,まさにヒントに満ちた1冊だ。
●著者:ワークショップ探検部 ●発行:翔泳社
●発行日:2021年6月7日 ●体裁:四六版/160頁
ゴミ清掃芸人の働き方解釈
著者はゴミ清掃員かつ23年間お笑い芸人をやっているダブルワーカー。本書にお笑いの要素はほぼないものの“なぜ働くのか,なぜその仕事なのか”を淡々と自問自答していく独白文には人生と労働に対する真摯な姿勢がにじみ出ていてついつい引き込まれていく。清掃員の仕事は,朝早くからチームでキビキビ働くのが基本で,同僚には,ボクサー・役者・ミュージシャンも多いという。ただ“本業では食えないからイヤイヤ掛け持ちの仕事をして……”という悲壮感はない。特に著者自身は,平日の昼間にきちんと働き,休みの日に芸能活動をやっていると捉えて「豊かなワークライフを実現している」という解釈さえも試みる。「何がしたいか」より「何ができるか」のほうが重要ではないかと問いかけ,ライフプランなど考えずに働き始めてしまった人たちにこそ読んでほしいと“気づき”を訴えている。あるとき副業と本業を逆に考えたら仕事が楽しくなってきたと振り返り,セレンディピティの力を熱く静かに真面目に語る「働き方解釈」がじわじわ来る。
●著者:滝沢秀一/田中茂朗 ●発行:集英社インターナショナル
●発行日:2021年6月12日 ●体裁:新書版/175頁
HRM Magazine.
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