*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME
 HR BOOKs
  

書評 2021.10

ワーケーションの教科書

 ワーケーションの定義を「非日常の場に,勤務時間中に,自発的に滞在して仕事・余暇を過ごすこと」と定め,様々な機関の調査報告を交えながら,働き方の実態と可能性を探る論考だ。時間と場所の選択権が本人にあるという前提で,ワークとプライベートを断絶させずにクリエイティビティを発揮させていく姿を1つのモデルに掲げている。そもそも論では「働く理由」と「ワークスタイルの変遷」に立ち返り,マルチワークとマルチロケーションの掛け合わせから創造性が触発される構造を俯瞰する。人事にとって気がかりな労働時間ではフレックスタイム制および裁量労働制に触れつつ,時間管理の縛り自体を疑問視。クリーニング店にシャツを預けた場合,1週間後に仕上がっていればよく,何時からどうやって洗濯したかまでの進捗報告は不要だと述べ,現実に即した法制度改革の必要性も言い添えている。また,オンライン化の進展で自宅が多機能化すると,広さを求めて地方への回帰が加速すると予測し,考察は働き方の近未来像に踏み込んでいる。

●著者:長田英知  ●発行:KADOKAWA
●発行日:2021年7月2日  ●体裁:四六版/239頁

「日本版ジョブ型」時代のキャリア戦略

 新卒採用から定年退職までを扱う日本型雇用は今後も継続するものの,職場のマネジメントはジョブ型に移行するという前提で,これからの個人のキャリア形成に有益なアドバイスをガイドしてくれる1冊。キャリアの前半期(20〜30代)はメンバーシップ型の雇用環境ゆえに,様々な経験を積むゴールデンタイムだと位置づける。中盤期(40〜50代)は,職務基準のアサインメント(適所適材)が進み,個人としては代表作となる経験とライフスタイルを確立する段階だとし,この時期を何となく過ごすと後半期(60代以降)は不本意な状況に追い込まれると警告している。70歳雇用までを視野に入れると,会社の存続自体が不確実となるので,どのような変化にも耐えうる主体的なキャリア意識と意思を持って自分をプロデュースしていく行動が重要になると指摘している。能力開発では幅(横)と深さ(縦)を同時に延ばす「T型人材」「TT型人材」を理想的なモデルに掲げる。意味のある「経験資産」をいかに獲得していくか,そこがカギになるようだ。

●著者:加藤守和  ●発行:ダイヤモンド社
●発行日:2021年8月17日  ●体裁:四六版/271頁

なぜ若者は理由もなく会社を辞められるのか?

 厚労省の元官僚で現在は大学教員の立場から学生たちと接する著者は,企業の中高年管理者らが若手に対して抱きがちな認識に違和感を見出し,その解明を試みている。書名に示された離職の問題はレトリックにすぎず,本書の扱うテーマは広範囲だ。まず,経済面では,約半数の学生が奨学金を得ている実態や日頃の質素な服装から「中高年世代より豊かで甘やかされているとはいえない」と指摘。頑張った先に何かを達成し得た中高年世代と,意味のない我慢大会を嫌う若手とで「やりきる力」に差が生じるのも当然だと分析を進める。一方,「成長できる職場」へ執着する若手に対しては,主体的な学習行動を起こしもせず何となく導いてくれる状態を期待しているだけだと甘さも認める。ただ,企業側の姿勢が問われているのも事実だとして,最強モデルにコンサルティング業界を,対極の最弱に中央官庁を挙げている。「今の若者は」と文句を言うのは「自分は仕事ができない」と告白するようなものだと言い当て,企業人読者に内省を問いかけている。

●著者:中野雅至  ●発行:育鵬社・扶桑社
●発行日:2021年9月1日  ●体裁:新書版/256頁

定年格差

 超一流企業の役員を退任後,人材紹介会社を起業し,5,000人以上の定年退職者の再就職を支援してきた著者は国の進める70歳定年制度を「天下の愚策」と批判する。定年年齢だけを引き上げても,企業にはシニアを抱え込む体力がないので事実上の「追い出し」が加速するだけだと語り,その先に,再就職先が見つからずに苦しむ人,適職を得て幸せに暮らせる人の間で「定年格差」が顕在化すると憂う。ただ,最も重要なのは個々のシニア自身がどうするかであり,気力・体力の衰えが始まる45歳を折り返し地点と定め,後半戦の準備を進めるべきだとアドバイスをまとめている。すなわち,後半戦は金や出世を追う必要がなく,誰かを蹴落とす競争も不要だと仮定し,好きなこと・楽しいこと・幸せに働けることに価値を置き,誰かの役に立つ共存社会で生きるキャリアを提案する。そのためには戦力外通告を受けてから「さて,どうしよう」では遅すぎ,早い段階からマインドセットの切り替えも不可欠だと明かしたうえで,成功する10の条件を整理している。

●著者:郡山史郎  ●発行:青春出版社
●発行日:2021年9月15日  ●体裁:新書版/187頁

HRM Magazine.

【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki