*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME
 HR BOOKs
  

書評 2021.11

人生100年時代を楽しむ生き方

 『月刊シルバー人材センター』のインタビュー記事を再編した1冊。「楽しみながら生きる」「チャレンジして成長する」「絆をつくり深める」「地域社会とつながる」「生涯現役で社会貢献する」の5章・計28人が高齢者の生き方,社会との接点,健康維持の秘訣など思うところを語っている。冒険家・三浦雄一郎氏,アプリ開発者・若宮正子氏のように本人が挑戦するシニアを体現している方のほか,自身も85歳ながら「ジジイ,ババア」と相手に呼びかけコミュニケーションの探求を怠らない毒蝮三太夫氏,あるいは映画『ぼけますから,よろしくお願います』の監督・信友直子氏やジャズシンガー・綾戸智恵氏のように家族の介護体験に触れる方など人選はバリエーション豊かだ。いずれも「生涯現役」の価値観は共通していて,苦しんで働く必要はないものの,諦めたり引きこもったりしてもダメだと諭される。書名の通り「楽しむ」アクションを実践できるかどうかが,人生100年時代の生き方のポイントであり,雇用政策の課題になるとの示唆が読み取れる。

●編者:『月刊シルバー人材センター』編集室  ●発行:労務行政
●発行日:2021年8月12日  ●体裁:四六版/245頁

ネクストカンパニー

 かつてIT業界の下請で苦しみ,現在は自社開発に挑む著者は,自らの体験を踏まえ,資本主義で儲ける仕組みを考察し,確信を得た要所を本書に公開している。そのキモはズバリ「いい物を高く売ること」だという。労働人口・労働時間・勤労者の年齢を見極め「薄利多売は成立しない」「コスト削減では利益は出ない」と結論づけた末に,高く売れる商品・サービスの開発を担う「人」の力に着目。利益率の高い会社ほど従業員たちが「この仕事,楽しい,最高」と思える環境整備に投資していると看破する。リアルオフィスの役割では,議論,プレゼン,フィードバック等,対面のコミュニケーションを通してアイデアを生み出す機能に可能性を見出す。また,AIは過去のデータを扱うのに対し,未来にヤマを張り,情報から企画を打ち立てられるのは人間だけと語り,失敗を許容する文化や雑談力の重要性を特筆している。「高く売れる商品・サービスの開発は,楽しく働ける会社・職場とセットで」と導かれた経営哲学は,次世代を狙う企業に共鳴していくはずだ。

●著者:別所宏恭  ●発行:クロスメディア・パブリッシング
●発行日:2021年9月11日  ●体裁:四六版/240頁

「働かないおじさん問題」のトリセツ

 本書の「働かないおじさん」とは“新聞を広げてお茶をすすり,喫煙場所でサボってばかり”というコミカルな次元ではない。本人は真面目なのに会社の期待とミスマッチを起こしている,いわゆるローパフォーマーの問題を扱っている。パフォーマンス改善コンサルタントの著者は,創意工夫・自主性・学習習慣の欠如,立場・役割の理解不足,過去の成功体験ゆえの呪縛など,症状別の分類整理を試みたうえで,要因は複合的であり,本人・上司・人事の3者で向き合うしかないと覚悟を迫る。そのうえで,方策の選択肢は,一定期間を経て,期待通りに改善されるか,会社の期待値を下げる(処遇を下げる)か,関係を解消する(合意退職・再就職支援)かの3つだと割り切る。具体的な対策ではWILL・MUST・CANのズレの認識と,ネガティブフィードバックを含む面談が柱となる。「ベテランなので言わなくても……」はNGで,苦手な感情が伴っても心理学的アプローチに則って働きかけを進めるしかないと,企業事例も紹介しながら本気の取り組みを解説している。

●著者:難波 猛  ●発行:アスコム
●発行日:2021年10月1日  ●体裁:四六版/312頁

人事のためのジョブ・クラフティング入門

 モチべーションやエンゲージメントの領域で注目される「ジョブ・クラフティング」につき,学説・実践の両面から,深くかつ噛み砕いて解き明かすガイド。直接的には「仕事を手づくりすること」と定義されているが,「のめり込み,熱中して仕事を工夫する力」くらいに捉えておくと理解が早い。「成功すれば幸福になれる」ではなく「幸福な心理状態が成功をもたらす」というポジティブ心理学のアプローチを手がかりに,興味・関心をかき立てられ,プロセスそのものへ没入する働き方(アドレナリンによる興奮ではなく,ドーパミンの持続がもたらす幸福感に近い状態と説明されている)を1つのモデルに据え,典型例に渋沢栄一の行動特性を挙げている。翻って人事の取るべき方策では,「みんなで楽しく働こう」という環境作りでは足らず,採用・オンボーディング・1on1といった機会ごとに一貫して各個人の内面に踏み込み,エンゲージメントの向上を引き出すアクションを求める。仕事を面白がる社員の育成がブレイクスルーのカギだと気づかされる。

●著者:川上真史/種市康太郎/齋藤亮三  ●発行:弘文堂
●発行日:2021年10月15日  ●体裁:四六版/258頁

HRM Magazine.

【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki