書評 2021.12
人を活かす経営の新常識
『リクナビ』編集長を経て2008年に独立。主に企業向けの研修事業を通じてリーダーシップ・マネジメント力の強化を支援している著者が8テーマ・50講話を綴った1冊だ。若者・女性・シニアのキャリア構築やリーダーの覚悟など,ニューノーマル時代の「会社と働き方」改革につき,論理的かつ熱いメッセージが凝縮されている。若手の早期離職問題では“打たれ弱い若手がすぐ辞める”のではなく“古くさい体質の会社が若手に見限られている”のが真相ではないかと疑い,「まずは下働きから」ではなく「いきなり花形部署」で働きがいを実感してもらい定着と活性化に成功している事例を紹介する。「終身雇用」に代わる「終身キャリア自律支援」を会社の役割に求め,新卒一括採用と人材育成は続けるとしながらも,一定期間を経たシニアには自律してもらう「ハイブリッド型雇用」を提案している。やる気とやらされ感,作業と仕事の違いを,他責・自責の概念から解き明かすなど,考察はポストコロナの模索が続く今の時代にうまく腹落ちする。
●著者:前川孝雄 ●発行:FeelWorks
●発行日:2021年9月15日 ●体裁:四六版/192頁
会社がなくなる!
伊藤忠商事の社長・会長,在中国全権大使等のキャリアを歴任してきた著者は,実践で培った経営哲学,歴史観・世界観と,マクロ経済動向を背景に,ポストコロナ時代の経営論を本書に考察している。世界規模で産業界の栄枯盛衰が起き,近年はそのスピードが激しさを増し,ギグ・ワーカーたちが個人で世界とビジネスを進める動きも捉え,「会社」の概念が大きな転換期を迎えていると見ている。世界中で消費者や若者がこれまでの資本主義を支持しなくなってきた兆候も視野に,会社は「誰のものか」ではなく「誰のためにあるか」と問い直す。翻って日本の現状では,「あらゆる指標が国力の衰えを示している」と厳しい。そもそも産業構造が大人数の社員を必要としなくなったと確信し,分散化(中小企業化)が進むと予測。さらに改革を阻むネックに「タテ型社会の病弊」を指摘し,入社年次・上座下座・前例踏襲の馬鹿さ加減を辛辣に批判する。再生の希望では人材力とりわけZ世代に期待を寄せ,彼らに好きにやらせる組織の度量を訴えている。
●著者:丹羽宇一郎 ●発行:講談社
●発行日:2021年9月20日 ●体裁:新書版/205頁
人事はあなたのココを見ている!
人事部の事情を一般の社員にも理解してもらえるよう,打ち明け話の形で24のトピックを綴った構成。高評価も懲戒処分も「行動」と「成果」の2軸に立ち返って判断する人事の行動原理が具体的に把握できて興味深い。まず,会社が最も嫌うのは行動しない評論家だとされ,本人は鋭い意見を述べたつもりでも,数値化できる成果と可視化できる行動が見られなければ評価は低いと説明している。同様に業務を頑張って努力していても,ミッション(価値提供)を明確に定めたうえでの達成行動でなければ評価対象にならないと冷徹な基準を明らかにする。本人がエース4番のハイパフォーマーでも,部下育成が下手なら管理者としての評価は低いまま。困った管理職には組織サーベイや360度評価で証拠を示し“覚悟を決めて刺しに行く”と緊張感伴う人事の決断も明かされる。自責・他責のバランス,老害社員と経験値の高いプロフェッショナルとの違い,困ったちゃん(モンスター)の類型と処分の着眼点など,人事の方が読んでも共感できる点は多々ありそう。
●著者:西尾 太 ●発行:アルファポリス
●発行日:2021年10月29日 ●体裁:四六版/240頁
できる30代は,「これ」しかやらない
40代以降も「永遠の作業員」で終わるか,一皮むけて「自分らしく活躍する人」に羽ばたけるか,30代はターニングポイントだと著者は指摘する。本書は,その脱皮のノウハウを,5つのポイント(@キャリア,A仕事の成果,B対人関係,C働き方,Dネットワーク)に整理し,“シン・働き方の教科書”としてまとめられている。まずは,どこで努力すべきかを問い,苦手分野を克服している余裕はなく,自分に向いている環境で成果を出すよう強み・資質の把握から説く。また,仕事の取り組みでは,予定を組んで終わりにせず,ゲームのように攻略法を見つけ押さえていく進め方を公開。振り返りも大事なプロセスだと認めつつ,「反省」して落ち込むのではなく,ソリューションフォーカス(解決志向)で「修正」していけばいいとポジティブな姿勢を諭す。実務3年+実績2年=計5年を経てようやく一人前のスタートに立てると仮定した場合,目を覚ますタイミングは30代だと強調し,成長を焦りがちな意欲ある若手社員の背中をプッシュしている。
●著者:松本利明 ●発行:PHP研究所
●発行日:2021年11月9日 ●体裁:四六版/269頁
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