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書評 2022.11

その働き方,あと何年できますか?

 9年のサラリーマン生活を経て独立,作家・講師・投資家・コンサルタントとして活躍する著者が「ぼくら」を主語に人生と仕事の目的を問い直していく。もはや普通の会社員でいる限り,働き方改革を実現しても働きがいの手応えは得られず,生産性を高めても給料は上がらないと構造的な行き詰まりを指摘し,読者に価値観の転換を誘いかける。会社員生活は服役期間,上司は看守,業務命令は懲役であり,給料とは来月も決められた通り働いてもらうための必要経費に過ぎないとシニカルに捉える一方,外部環境のせいにしても状況は変わらない現実も確認し,解決策は個人に刷り込まれた道徳観(=世間の目)からの脱出ではないかと考察を進める。ビジネスの視点に置き換えれば,誰からも叩かれない「真っ白なニーズ」では消費者は反応せず,今こそ批判を恐れて閉じ込めてきた「フロンティア・ニーズ」を呼び起こすときだと語る。自身の思い込みを疑い修正する独自の方法論も紹介されているので,共感できる読者はまずはそこから試してはいかがだろう。

●著者:木暮太一  ●発行:講談社
●発行日:2022年9月20日  ●体裁:新書版/211頁

ゼロからわかる新卒エンジニア採用マニュアル

 ビジネスのDXシフトを迫られながらも,優秀なITエンジニアの中途採用は難しい。といって外部委託では工程単位の発注に留まり,ビジネス全体を展望した工夫点の提案などは期待できない。そこで価値創造まで任せられるシステム開発担当者の確保は新卒で採用し自社で育てていくのが最適解だと著者は推奨する。ITエンジニアの採用には他職種と異なる専門職ゆえの手法があるとも語り,実践ステップを5段階に整理して解説を展開している。まず,ターゲットの見極め方では「即戦力」「制作物あり」「授業+α」「授業のみ」の4階層に分類。そのうえで「ユーザー志向」か「アカデミック志向」かに2分すれば,より自社に適した人材を絞り込めると説く。また,求人方法では一般的な採用メディアではなく,1on1イベントやスカウトメディア,人材紹介サービスの利用に注目する。4社の事例紹介(採用担当者へのインタビュー)のほか,大学別(21校)にエンジニア志望学生の傾向をグラフ化してコメントを付した“巻末特典”も面白い企画だ。

●著者:楓 博光  ●発行:あさ出版
●発行日:2022年9月28日  ●体裁:四六版/215頁

ゼロから学ぶ人事の仕事

 「そんな人事でよろしおすか?」と本書の副題はなぜか京都弁の問いかけであった。地元・小川珈琲でゼロから試行錯誤を重ねて人事部を作り上げてきたという著者は,その経験をベースに人事の真髄を綴っている。人事の役割は“従業員の成長をサポートすること”という立ち位置を再確認し,パーパスドリブンによる経営姿勢との整合性を強調。パーパスの明確な経営方針が打ち出されていれば,それに共感する従業員たちがモチベーションを高め,パフォーマンスを発揮し,組織の一体感も生まれるという好循環を期待している。解説は,採用・評価・等級・賃金・配置・異動・代謝・人材開発・組織開発・ダイバーシティに至るまで,また内外の理論にも触れて幅広い。ただ,例えば目標管理ではKPI等の成果チェックに留まらず,組織と人材の成長,経営理念の浸透を重視するなど,基本姿勢をブレなく確実にするためのアドバイスに力点がうかがえる。テクニカルな制度設計や運用ノウハウの前段階の“土台”をしっかり固める重要性に気づかせてくれる。

●著者:原田英美子  ●発行:マイナビ出版
●発行日:2022年9月30日  ●体裁:四六版/320頁

人事制度の基本

 コンサルタントの立場から約400社の人事をサポートしてきた著者は,「制度のハードウェア(型)はほぼ同じ」との確証を得て,普遍性と汎用性に留意した基幹人事制度モデルを本書にまとめている。大前提として人事制度の目的から説き起こし,等級制度・評価制度・給与制度は,社員に対する考え方(人事ポリシー)を反映したものであるべきだと位置づける。制度の様々な構成要素は独自のマトリクス表で視覚化され,漠然としていた人事周辺の諸項目が構造的に把握でき,深い理解を助けてくれそうだ。また,解説は非常に親切かつ具体的に展開されているので,経営と従業員の間で悩む人事担当者にとって“刺さる”ポイントは多いと思われる。オリジナル図解の他,「職位要件」「目標管理シート」「行動評価シート」「新制度移行スケジュール」「社員向け人事制度説明会ハンドブック」等のサンプルも豊富。とりわけ汎用性と普遍性を担保した等級制度の策定ベースとされる「45項目のコンピテンシーモデル」は資料性抜群であり,お得感たっぷりの1冊だ。

●著者:西尾 太  ●発行:日本実業出版社
●発行日:2022年10月20日  ●体裁:四六版/295頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki