書評 2022.12
その対応では会社が傾く
危機管理のプロコンサルタントが,組織を守る立場から外部対応のノウハウを明かした1冊。危機管理の目的は,@危機を回避する,Aダメージを小さくする,の2点と定義したうえで,感知・解析・解毒・再生の4つのステップで対応していく順番が肝要だと基本を強調する。また,科学的に全体を把握する手段として,天災か人災か,自分たちは加害者か被害者か,人・物・カネ・情報への影響はどうか,と掛け算し16分野の危機を洗い出す手法も公開している。もっとも本書の特筆すべき特徴は,政界・経済界・芸能界で問題になった実際の不祥事・スキャンダルを題材に,被害者やマスコミへの向き合い方を分析しながら最適解を探っていく具体的な記述にある。主要な解説は「危機管理ゼミナール」のスタイルを取り,教授の問いに受講生たちが討議を重ね,さらにレクチャーが加わる構成で進められているので読みやすさも抜群だ。「社員が痴漢の疑いで逮捕されたと記者から一報を得たとき会社はどう対応するか」例えばそこからゼミ生と共に考えてみたい。
●著者:田中優介 ●発行:新潮社
●発行日:2022年10月20日 ●体裁:新書版/192頁
男性中心企業の終焉
女性の地位向上をテーマに,企業事例・識者の見解・当事者たちの生の声を取材して仕上げた論考だ。均等法施行からの30年を,保護・配慮・戦力化の3段階で振り返りながら,依然ジェンダーギャップ指数が万年最下位の日本の問題点を掘り下げていく。注目すべき着眼点の1つは,両立支援が充実しすぎた結果,女性たちがマミートラック(=キャリアを降りるコース)に追い込まれているという捉え方だ。また,女性管理職が少ない理由では,性格や価値観の話ではなく,重要な仕事をアサインされない,期待されない,評価されない経験格差が背景にあると指摘する。さらに,夫の会社が改革を怠っていると,そのツケはキャリアを諦め,ワンオペに苦しむ女性たちが払うことになるとも語り,その場合,企業はフリーライド(ただ乗り)の状態ではないのかと厳しく問う。ジェンダー改革が進まない要因を多角的に検証しつつ,根本には,誰かのポジションが奪われるといった恐怖心があると推察。それを取り除き,対立的な構造にしないことも肝要だとまとめている。
●著者:浜田敬子 ●発行:文藝春秋
●発行日:2022年10月20日 ●体裁:新書版/280頁
仕事は職場が9割
デジタルスキルに長け,意識も能力も高い若手が,数年で消極的な働き方に閉じこもってしまう原因は職場環境にあるとの疑いから「仕事は職場が9割」という本書のタイトルが導かれている。人々がモチベーションを高め,ポジティブに働くためには職場環境を変える必要があるとの確信に基づき,計20のヒントが綴られている。通底するカギは「主体性」と「越境」の2つの概念だ。上司は選べないと諦めるのではなく,役職・部署・社歴・年齢を横断して尊敬できる師匠を見つける方法もあると説く。また,理不尽に耐えて給料をもらうのではなく,自身に権限を取り戻し,会社のリソースを活用して自らの可能性を広げる働き方へ脱皮しようと誘いかける。その過程では,大企業信仰・下請け思考・同調圧力等からの卒業を提案。上司部下の関係も,チームメイト・背中を押してくれる存在へ変質していくと見通す。仕事の景色を変えるために4区分(仕事の役割・人間関係・仕事の環境・仕事そのもの)のトピックを設け,新しい働き方の道筋を探っている。
●著者:沢渡あまね ●発行:扶桑社
●発行日:2022年11月1日 ●体裁:四六版/224頁
新入社員に贈る言葉
50年の歴史を誇る定番シリーズの最新版。「はじめの一歩」「職場の知恵と心得」「しなやかな心と体」「人生のキーワード」「きょうとあすの間」の5章・各10名=計50話に及ぶ新入社員向けのメッセージが編纂されている。ともすると産業界の重鎮や専門領域の熟達者,大学の先生方からの寄稿を想定しがちだが,本書には意外な人物も選定されていて,その内容とともにインパクトを覚える。若い高梨沙羅氏の登場にも驚かされるが,小学2年生からスキー選手として活躍している経験と実績があり,新入社員にとっては社会人の先輩であったと合点がいく。また,有働由美子氏,古市憲寿氏,山田五郎氏,岸本葉子氏ほか,多様な媒体でお見かけする方々も意外な一面を明かしていて新社会人ならずともお話に引き込まれる。本来は,内定者・新入社員へ会社から配布するような活用になると思われるが,世代にかかわらず,いつ読んでも気づきは得られそうだ。1話あたりの量もコンパクトで読みやすく,社会人読者にはうれしい“言葉の花束”になるだろう。
●編者:経団連出版 ●発行:経団連出版
●発行日:2023年1月1日 ●体裁:四六版/208頁
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