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書評 2023.01

働くことの意味

 郵便局職員・全逓専従を経て45歳で大学進学。その後,教職・研究者の立場で内外2,000社の製造業から話を聞くというフィールドワークを重ねてきた著者による論考集だ。本のタイトル「働くことの意味」は,10章に及ぶ広範なテーマの象徴的表現と推察され,各章は独立したエッセイに近い。通底するのは「言われたからやる」とか「下請けだから仕方ない」といった労働観ではなく,経験を蓄積したプロフェッショナル個々の確かな自信と,出会いや発見の連続で新しい仕事が生まれる創造性への期待感に価値を見出そうとする姿勢だ。「人は仕事をしながら目標を持つようになる」と長い時間軸で捉え,即戦力に絞りすぎた教育には矛盾を指摘する(「すぐに役立つ人間はすぐに役に立たなくなる」と先人の書籍から引用)。相当に落ち着いた地平から働き方を概観する人材論であり,要点を順序立てて解き明かしていくような気ぜわしい構成とは違う。1944年生まれの著者のキャリアの航跡と企業社会に対する観察眼を味わうような読み方がしっくりくる。

●著者:中沢孝夫  ●発行:夕日書房
●発行日:2022年9月30日  ●体裁:新書版/191頁

年収443万円

 タイトルは給与所得者の平均年収。論点はこの額の高い安いではなく,第3部で提起された就職氷河期世代の放置がもたらす社会的危機にある。それに先立つ第1部(平均収入・6名)と第2部(平均収入以下・5名)では,サンプリング各自の生活実態が独白スタイルでトレースされている。世帯年収では700万円以上あり,家を買い,クルマを所有し,子育てにいそしむ恵まれた中間層にも思えるが,当人たちは余裕を失い,悲鳴を挙げる。その圧迫感の内訳は,扶養の負担感,雇用の不安定,住宅ローンや奨学金の返済,クルマの維持費,子どもの学費など。特に女性は子育てをハンデと感じ,ストレスを膨らませている。世帯年収1,000万円でも豊かさの実感はなく不安感・恐怖心はほぼ共通している。先行する世代との違いは「どうにかなる」という楽観が許されない現状認識にあり,そこが就職氷河期世代を縛る自己責任論の限界,疲労感の正体ではないかと著者は読み解く。究極的には勤労者全員正社員が望ましいと論じ,「格差是正法」の制定を提案している。

●著者:小林美希  ●発行:講談社
●発行日:2022年11月20日  ●体裁:新書版/221頁

なぜ理系に女性が少ないのか

 日本の理系女性問題の“当事者・1つのサンプル”を自認する著者は,学際的プロジェクトを組んで理系分野に女性が少ない現象の解明を試み,本書に概要を報告している。まず,世界比較で数学の成績をみると,日本は男女ともトップレベルであり,性差による学力差はないと確認。生まれ(生物学的要因)ではなく,育ち(文化的・社会的な環境要因)にネックが疑われるとの仮説から,内外の文献および独自アンケートによる調査を進めている。先行研究からは,@理系分野の男性的カルチャー(ステレオタイプ)の影響,A幼少期の経験,B理系科目に対する自己効力感の男女差,という3つの要因を見つけ,さらに著者らの独自の発見として「性差別についての社会風土の影響」にスポットを当てる。特に日本の社会では無意識のバイアスが大きいとみて,職業のジェンダーイメージが就職や結婚観に及ぼす影響,「看護学は女性,機械工学は男性」と認識されてしまう背景を考察する。少なからず企業人事のジェンダー課題とも交差し,示唆のにじむレポートだ。

●著者:横山広美  ●発行:幻冬舎
●発行日:2022年11月30日  ●体裁:新書版/236頁

中小企業のHRテック入門

 クラウド・AI・RPA等の技術を組み合わせて人事分野の効率化を推進するHRテックにつき,代表的なサービスを具体名で取り上げ概要をガイドした1冊。ただし,著者らは人事コンサルタントの立場から“アナログ人事あってのHRテックによる補完”という大前提でユーザー目線を貫いているので,保守的な人事の方でも安心して読める。すでにHRテックは,求人・採用・配置・定着・教育・労務・評価の各業務領域で活用が進んでいると概観したうえで,「人材募集・採用システム」「人材の定着・活用システム」「人事評価」でのサービス活用を例示。導入・稼働を成功させるための「HRテック5原則」,サービス選定時の基準「7つの評価軸」など参考になる要点整理に加え,社内の啓蒙活動(勉強会)の運営,トライアル運用,事業者プレゼンの見極め方,HRテック導入反対派の上手な巻き込み方に至るまで,記述は実務に徹している。HRテックをコスト削減ではなく人材投資で捉えるスタンスも,躊躇が先立ちがちな読者の背中を押してくれるに違いない。

●著者:森中謙介・町田耕一  ●発行:あさ出版
●発行日:2022年11月30日  ●体裁:四六版/172頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki





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