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書評 2023.02

アニメ映画から学ぶ生き方のヒント

 『月刊 人事マネジメント』の連載で取り上げた11編を含む計24のアニメ映画作品を題材に「人生100年時代の女性のキャリア」(本書副題)を読み解いていく柔らかくも真面目な1冊。「ヤングの生き方」「ミドルの生き方」「シニアの生き方」の3章をキャリア研究に携わる著者たちが考察。さらに第4章では「人生を変えた15のアニメ映画」と題し,別途15作品・15名の寄稿文を収録している。作品と論点の関係では,『魔女の宅急便』から「仕事の意味」,『千と千尋の神隠し』から「タフネス」,『君の名は。』から「パラレル・キャリア」,『ルパン三世 THE FIRST』から「学習の意義」といった具合で興味深いテーマが並ぶ。例えば,『美少女戦士セーラームーン』では“指令部”や“アシスタント”ではなく,最前線で戦う女性の姿に着眼し,“お茶くみ”“コピー取り”から脱したキャリア観形成への影響を論じている。他にも,社会貢献意識(『となりのトトロ』)やリーダーシップ(『トイ・ストーリー』)など,考えるヒント盛りだくさんの楽しい構成だ。

●著者:安齋 徹・小早川優子・米倉史夏  ●発行:樹村房
●発行日:2022年10月26日  ●体裁:四六版/177頁

ゆるい職場

 働きやすさや労働者保護に配慮した法制度が整い,労働環境は急速に改善しているのに,若者の離職率が上昇している珍現象に注目する著者は,その原因に「職場のゆるさ」ゆえの「若者の不安」を見つけ,本書に考察を展開している。延べ100名以上へのインタビューを通じ「残業はないし,叱責されたこともない」と語る若者が「仕事がゆるくて辞めたい」ともらす背後に「不安」が共通すると分析する。「必要とされる仕事をしている気がしない」「成長に時間が掛かっている」と焦る当人たちは,実は,仕事の負荷が軽く,上司・先輩たちが優しい職場を「嫌いではない」と認識している。ただ,同時に「上司が見守ってくれ,声をかけてくれ,褒めてくれて,話を聞いてくれたところで,自分の市場価値は高まらない」と合理的にも考える。こうした現象への対処法では,昔のマネジメントには戻れない現実と「自律した若手ほど辞める」という複雑な構造を受け入れたうえで,社外での活動体験を支援するといったアプローチが有効ではないかと提案している。

●著者:古屋星斗  ●発行:中央公論新社
●発行日:2022年12月10日  ●体裁:新書版/255頁

50歳の壁 誰にも言えない本音

 約20年にわたり900人超のビジネスパーソンへヒアリングを実施してきた著者は,40歳以上の層に特有の「誰にも言えない本音」をピックアップ。16人からのお悩み質問および数人のコメントを挟んで著者の専門である健康社会学の知見による処方を本書に解説している。50代会社員の例では役職定年に伴ういわゆる「働かないおじさん」の問題を俎上に載せる。周囲が「働かないおじさん」とレッテルを貼ると,当人の意識・言動もステレオタイプに同化していく“伝染の危なさ”を指摘。その場合は,社会的アイデンティティーの枠から脱し「私」がどうありたいかという「意志力」を取り戻すようアドバイスする。人生の有限性に気づき喪失を覚えるミドルクライシスは誰にも訪れると認める一方,「出世は諦めても人生は諦めるな」とも諭す。思考停止ではなく危機を認識したうえで「ありのままの姿」を受け入れ,そこから再スタートする自己受容のプロセスを重視し,まずは「半径3メートル」の充実から取り組み,学習し続けよと“激励”を綴っている。

●著者:河合 薫  ●発行:エムディエヌコーポレーション
●発行日:2022年12月11日  ●体裁:新書版/231頁

企業変革(CX)のリアル・ノウハウ

 「CX(コーポレートトランスフォーメーション)」とは現状のビジネスモデルの改良・改善ではなく「積極的に破壊し,非連続な変化を伴う成長に向けた企業変革」だと本書は定義づける。経営を可視化し利益の出ていない事業から撤退し,成長分野に集中投資するというプロセスをたどる結果,組織・価値観・文化は変わり「血も流れる」と著者らは覚悟を迫る。ただ,本書のスゴみは,そのリアルをドラマ仕立てで再現した構成にある。物語は2編。第1部は改革意識の鈍い大企業「大昭和出版」(架空)が斜陽産業から脱出する話で,抵抗勢力相手に奮闘する経営企画部長から目が離せない。第2部は,ワンマン社長が君臨する「山陰パイプ」(架空)が舞台で,銀行から追加融資を断られ,財務部長が社長に灰皿を投げつけられるところから物語は始まる。希望退職のリアル,人事課長の苦悩も読みどころだろう。第3部では改めてCXのポイントが整理され,「落とし穴と成功の秘訣」「成功のための5ヵ条」等の抜け漏れなく具体的なノウハウが役立ちそうだ。

●著者:木村尚敬・小島隆史・玉木 彰  ●発行:PHP研究所
●発行日:2023年1月13日  ●体裁:新書版/287頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki