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書評 2023.03

日本の大企業 成長10の法則

 70年以上の歴史を誇る日本の大企業のうち,「失われた30年」の間も成長を続ける15社に注目。これら企業の経営に共通する10の「黄金法則」を見出すオリジナリティあふれる論考だ。第T部では「失われた30年」を10年単位で検証し,破壊的な改革に踏み出した米国企業と悪魔のサイクルに陥った日本企業を比較する。第U部では,その間もイノベーションを起こし好業績を上げ続ける「失われなかった」企業にスポットを当て特徴を分析している。面白いのはドラスティックな手法ではなく,極めて日本的なアプローチで成功している点だ。例えば,プロ経営者のトップダウンではなくサラリーマン社長が率いる全員参加のボトムアップ型組織が実は変革を成し遂げている。「戦略二流・実行一流」かつ「厳しいが温かい」従業員への向き合い方が奏功していると著者は解説する。第V部では改めて「会社をつくり直す」方策を概観し,「課長」の復権,そして「人事部」の改革を提案。400ページを超える大作だが,記述は終始明快で,読者は十分ついていける。

●著者:綱島邦夫  ●発行:日経BP /日本経済新聞出版
●発行日:2023年1月18日  ●体裁:四六版/415頁

モチベーション脳

 脳科学の専門家である著者は“脳の統計学習”の働きを頼りにモチベーションの正体を解き明かしていく。まず,人間の脳は24時間統計学習を働かせて確率的記憶を更新し続け,無意識レベルでの判断を行っていると概説。言語や音楽で単語や音符の並びを予測する現象を例に挙げ,不確実性がなくなるまですべてを理解しようとする機能を説明している。続けて,脳は不確実性が起こらないところ(既知)まで理解が進むと興味を失い(飽き),新しい不確実性(未知)を求めるようになると内外の研究結果を紹介する。つまり,脳科学の知見からすると,モチベーションは,既知と未知の間の微妙なズレ(不確実性のゆらぎ)に生じる作用だとされる。また,外部からやる気のスイッチを入れるような捉え方は虚構ではないかとも疑い,「行動ファースト」でフローの状態に持ち込むスタイルを処方の1つに提案している。内発と外発,緊張と弛緩のバランスによってやる気やパフォーマンスが影響される我々の体験も理論的に裏付けられていき,多々合点がいく。

●著者:大黒達也  ●発行:NHK出版
●発行日:2023年2月10日  ●体裁:新書版/205頁

人事ガチャの秘密

 3年間のべ86社の「人事異動」をヒアリング調査してきた人事プロフェッショナルによる注目の論考だ。特筆すべきは匿名化したうえで人事担当者のナマの声を再現し,現実を立体的に描き出している点だろう。「ミドルパフォーマー」「管理職」「役員候補」「タレントマネジメント」の4つの切り口から考察を展開し,会社員読者に向けては“運任せのガチャ”ではなく一定のルールに基づき運用される“人事のからくり”を説明している。一方,配属・異動に「明確な方針がある」企業は少数に留まり,異動原案は事業部のニーズに基づいて策定される実態も明かす(その意味で「上司ガチャ」はありうる)。また,人事部内でも一部しか関わらない役員候補の人材プールにも触れ,対象者は社員の1%,本人に伝えている会社は3割に過ぎない秘密の領域にも踏み込んでいる。最終章では「これでよいのか? ニッポンの人事異動」と題し,OLD 3K( 記憶・経験・勘) から脱し,NEW 3K(記録・傾向・客観性)へ人事部も変わるべきだとメッセージを綴っている。

●著者:藤井 薫  ●発行:中央公論新社
●発行日:2023年2月10日  ●体裁:新書版/271頁

人が働くのはお金のためか

 本書のタイトルにつき著者自身は「やりがい詐欺の道具立てにされかねず不本意」と内心を明かす。そして,書名以上に目立つオビに明示された「21世紀の労働」を主軸に「働くこと」の現在地を探求していく。意識されているのは『21世紀の資本』(トマ・ピケティ)だ。同書が制御を失い野生化した主義なき資本を暴いたとするなら,それに対峙する「21世紀の労働」の姿はどうあるべきかと問いを立てる。ただし「学術書ではないから」と断わり,思考のヒントをAmazonのブックレビューと就活支援サイトのアドバイスガイドに求めるなど,その着眼はユニークで面白い。レビューが金銭動機を第一に挙げ,やりがい詐欺を警戒するのに対し,就活アドバイザーは自己実現や社会貢献を強調していると,対立構造を顕在化させる。そのうえで両者を21世紀の労働と資本の関係に重ね,現在,資本の側は労働の側に20世紀並みの扱いを強いているのではないかと追及する。論考内容もさることながら,自問自答を重ねる独特の思考の旅路も読みどころの1つかもしれない。

●著者:浜 矩子  ●発行:青春出版社
●発行日:2023年2月15日  ●体裁:新書版/251頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki