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書評 2024.06

WAKE-UP CALL 次世代リーダーの「仕事観」革命

 西武百貨店人事部所属がキャリアのスタートだったと著者は明かす。以後,50年にわたり人材開発に携わってきた大ベテランが「仕事観」の“革命”を本書に語っている。革命というだけに大局的な本質を捉え,かつ未来志向,そして提案内容は大胆だ。男性・生え抜き・年次管理の内部昇進をやっていたら変化対応できるリーダーは生まれないと断言し,「クラシック型」から「フロンティア型」へのリーダー像の転換を訴えている。前半は人的資本やウェルビーイングを含む組織マネジメントおよび個人で切り拓いていく時代のキャリア論を解説。後半は「7つのウェークアップコール」と題して,新時代の仕事観・人生観に気づくヒントを整理し,「変革か死か」という使命感の覚悟と,組織の外に関りを求めていく「越境」を手がかりに,目指すべきリーダーの姿を説き起こしている。最終章では経営者に向けて,若者の力を信じ活用し経営革新を進める本気度を問う。「権威主義の人事を破壊する」という著者の野心的目標が凝縮された圧倒されそうな1冊。

●著者:上野和夫  ●発行:ディスカヴァービジネスパブリッシング
●発行日:2024年3月22日  ●体裁:四六版/223頁

女性の階級

 社会学の立場から格差と階級を研究している著者が「女性」を対象に考察を綴る。研究対象が男性の場合は本人の所属(資本家階級・新中間階級・正規労働者階級・非正規労働者階級・旧中間階級)で格差を語ることができるのに対し,女性の場合は個々の前提の違いが大きいと認識。そこで「本人が有職か無職か」「配偶者がいるかいないか」「配偶者の所属階級はどこか」という要素を考慮し,女性たちを計17の属性に区分したうえで,年齢・年収・生活費・学歴・資産総額・貧困率等を整理している。とりわけ本書が問題視しているのはフリーターに象徴される非正規労働者たち(アンダークラスと表現)の存在だ。男女比較でも女性に偏る傾向を認め,就職時,離死別の機会,子供時代の体験を視界に入れて原因を探る。また,女性間の格差が大きくなっている一方,依然,男女間の格差が解消に至っていない現実を指摘し,高い非正規比率,短い勤続年数,低い役職比率等の現象がなぜ起きているのかという根源的な課題に目を向けるべきだと論じている。

●著者:橋本健二  ●発行:PHP研究所
●発行日:2024年4月26日  ●体裁:新書版/295頁

リーダーシップは「見えないところ」が9割

 数多くの企業で人材育成やチームビルディングのサポートを重ねてきた著者が,できるリーダーに共通して見られる心得とアクションを本書に語る。プレイヤーとは一線を画し“本業はリーダー”であることの自覚を求め,チームの力を引き出す仕組み作りとコミュニケーションの工夫をレクチャーしている。本書のユニークなポイントは「見えないところ」への着眼だ。部下をほめるときも,日頃からノートをつけて,最も効果的なタイミング,言い方で伝えるよう提案する。叱る場合も,準備を怠りなく,場を選び,順序立てて指摘する方法をアドバイスする。トラブルに見舞われイライラしても,対外的には冷静に対応するコツを公開。休日や時間外にはあえてメールを返さず,オンタイムにすぐ対応できるよう準備だけはしておく姿を想定する。いずれも「見えないところ」の思考と動きがカギになっている。自分を成長させるためには読書が有効で,特に古典と心理学は人間力を養う基礎になると推奨するなど,見えないところの差の大きさに改めて気づかされる。

●著者:吉田幸弘  ●発行:青春出版社
●発行日:2024年5月15日  ●体裁:新書版/205頁

組織不正はいつも正しい

 いわゆる「組織ぐるみ」と批判された不祥事を対象に,研究者のポジションから現象の全体像を捉え,問題のありかに迫る論考だ。三菱自動車・スズキの燃費試験,東芝の不正会計,小林化工・日医工の品質不正に加え,大川原化工機の冤罪事件では,警視庁公安部の誤謬を取り上げる。いずれも私利を動機とした横領事件などとは異なり,組織人の立場から「正しい」と思って判断したことが,法規の定める「正しさ」と差異を生じさせ,事件化したものと読み取れる。悪意・動機があって不正が実行されたというより,第三者委員会等の調査による逆算的な検証プロセスを経ないと構造と原因が特定できない複雑さを描き出す。個人が「正しさ」を追求すると,それが重なって組織の不正が加速し,やがて組織が崩壊することで社会の破壊を招く「社会的雪崩」(ソーシャル・アバランチ)のリスクを指摘。一方で,不正を防ぐ正解はないとも述べ,固定的・絶対的な「正しさ」のもろさを警戒し,複数の流動的な視点で相対化していく重要性を訴えている。

●著者:中原 翔  ●発行:光文社
●発行日:2024年5月30日  ●体裁:新書版/229頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki