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書評 2024.07

職場を腐らせる人たち

 精神科医の立場から企業で働く人々の悩みに接してきた著者は、相談者本人ではなく周囲の「職場を腐らせる人」に原因があるケースに着目。15の事例を通して特徴を整理し、精神構造を解き明かしていく。まず、“根性論の上司”では、ビジネスの現実を直視せず自己防衛作用から躁状態になっている挙動を疑う。また、“言われたことしかやらない若者”の場合は、経験不足による無能ぶりが露見する恐怖から理屈を並べて仕事を断る自己正当化の心理が働いていると分析する。仕事ができないのに名門大学出身だといって“相手を見下す人”は、承認欲求をこじらせている状態だとみる。もっと恐ろしい例では、自己保身の心理から事実無根の噂話をまき散らし、他者を貶める人もいる。加えてこれら職場を腐らせる人たちは、自分が悪いとは自覚できない病的な状態にあり、心理・行動を変えさせるのが困難だとも指摘する。不安感の募る論考だが、後半では、ターゲットにされず、巻き込まれないための対処法がアドバイスされているので、その点は救いだ。

●著者:片田珠美  ●発行:講談社
●発行日:2024年3月20日  ●体裁:新書版/189頁

なぜこんな人が上司なのか

 証券会社勤務を経て複数の企業の経営再建を手がけてきた著者がリーダー論を語る。人望を失うリーダー・組織を破壊しているリーダーと、成功したリーダーを対比させ、望ましいリーダーシップの姿を探る論考だ。ただ、本書はいわゆるビジネス書ではなく、「話は変わるが」「話は戻るが」と次々に場面が切り替わる独特のレトリックに特徴のあるエッセイで、古今・内外・公私を縦断する題材から“上司のあり方”に収れんさせていく筆運びが面白い。例えば、織田信長が古参・佐久間信盛を追放したやり方を引き合いに、80代ホステスが現役で働く大阪ミナミのキャバレーの巧みな経営を説く。あるいは、高級ラーメン店の失敗とAKB48『365日の紙飛行機』の歌詞、部数減が止まらない新聞社の凋落と“常に新しい老舗”であり続けるグンゼの経営判断、といった比較も綴っている。伏見工業高校ラグビー部の「可能性を信じる力」、現場の状況・実態を知ったうえで口を出さずに部下の成長を見届けた大山巌の「器の大きさ」などのトピックも腹落ちしやすい。

●著者:桃野泰徳  ●発行:新潮社
●発行日:2024年3月20日  ●体裁:新書版/192頁

どんな人も活躍できるディズニーのしくみ大全

 オリエンタルランドで20年のキャリアを重ね、東京オリンピック・パラリンピックではボランティア人材育成統括を努めた著者が、ディズニー流人材育成のノウハウを集大成した1冊。ディズニーでは個人のモチベーションに依存しない仕掛けがあり、当たり前のことを確実に実行する「しくみ」が機能していると前提を語る。加えて、ミッションとゴール、行動基準と優先順位を伝えているので、刻々と状況が変化してもメンバー各自が自主的に最善の行動をとれるようになっていると特徴を説明している。第1章ではこれらを「どんな人も活躍できるディズニーのしくみ10原則」と題して紹介。第2章以降は「ゴール」「ミッション」「チーム」「コミュニケーション」に分けて、計50の「しくみ」を解説している。チームの雰囲気を明るくする、職場に一体感を作る、といったチームビルディングの手法に加え、教育内容をアップデートするチェックシートなど気の利いた資料も掲載され、仕事観の再認識のほか、実務の面でも活用余地は多々ありそうな内容だ。

●著者:大住 力  ●発行:あさ出版
●発行日:2024年6月18日  ●体裁:四六版/230頁

仕事が好きで何が悪い!

 1939年生まれの著者は、伊藤忠商事・ソフトバンクモバイル等でのサラリーマン生活を経て後、日本の年金制度は破綻すると確信し「自分たちは逃げ切れる世代」という発想自体が「恥知らず」だと一念発起して82歳で起業。「良い老人」を目指したかったと覚悟を語っている。主に定年前後の60代、および気づきや準備の期間を見込んで50代の会社員を読者に想定し、日本のサラリーマンのやり方をさっぱり忘れて仕事に対する全く新しい取り組みを始めようと背中を押している。定年を迎えて会社員生活から解放されたいという心理については、その苦痛の要因は組織・人事・人間関係にあり、仕事そのものは楽しかったのではないかと問い返す。そして、定年を期に苦痛はリセットできるとも語り、@自由で、A楽しく、B誇りの持ている仕事への向き合い方を提案する。定年後は、権力にこだわり主役を争う必要がなく、脇役に徹する楽しみや、血湧き肉躍る起業もやりやすくなった環境を示唆。同時に「老害3原則」を挙げ自らに戒めを言い聞かせている。

●著者:松本徹三  ●発行:朝日新聞出版
●発行日:2024年6月30日  ●体裁:新書版/235頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki