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書評 2024.08

社会人3年目までの,ほめられる技術

 ほめて育てる「ほめ育」を提唱し,企業の人材育成を支援する著者は,20代のうちに“ほめられ貯金”を積んでおこうと入社3年目までの若者たちを諭す。ただし,“よかった,上司・先輩は私をほめてくれるんだ”と受け身でいると,その甘えは吹き飛ばされるだろう。「ほめると叱るはセット」と語られている通り,本書の実質は,叱られて学習して成長していく主体性へのアドバイスにある。たくさん行動し,思い切り失敗し,大いに叱られ,反省を刻み,学習を重ね,ほめられる存在になるというサイクルが許されるのは入社3年目まで。だから定時退社後も,興味を持って周辺領域の学習を進めるなど前向きな行動があっていいと述べ,「ワークライフバランス」は入社4年目以降の課題だと言い添えている。挨拶・時間厳守は当たり前,事前リサーチなど先周り行動を心がけ,同期メンバーとは傷をなめ合うのではなく切磋琢磨する関係でありたいと訴える。叱られてふてくされたり反論を試みたりしている場合ではないと気づいた若手読者は成長するはずだ。

●著者:原 邦雄  ●発行:ぱる出版
●発行日:2024年4月3日  ●体裁:新書版/224頁

組織の未来は「従業員体験」で変わる

 HR分野で関心度の高まる「EX:エンプロイーエクスペリエンス=従業員体験」につき,“何がどう機能する状態”が望ましいのか,著者らは改めて深層から説き起こしていく。まず,働きやすさとエンゲージメントの関係を捉え直し,福利厚生の拡充や社内イベントで組織を盛り上げるようなやり方では,かえって従業員体験を貧弱にしかねないとリスクを指摘する。続けて,熱意ある社員が集まり,働きがいを生み出すような従業員体験の設計要素を「期待値」「個別化」「時間軸」の3つの視点で整理。入社から退職までを“組織で働く旅”と仮定し,一人ひとりの価値観・資質・状況に合わせ,時機に適合した体験の設計をガイドしていく。とりわけ,行動・思考・感情を人事イベントのアクション単位で可視化する「エンプロイージャーニーマップ」は,具体的な人事施策を導き出すツールとして注目したい。エンゲージメント・ウェルビーイング・人的資本といったバズワードの真意を理解し,経営人事に組み入れ,うまく機能させていく手がかりが見えてくる1冊だ。

●著者:上林周平/松林博文  ●発行:英治出版
●発行日:2024年6月25日  ●体裁:四六版/223頁

【新解釈】マネジメントの本

 人事コンサルティングと研修事業を手がける著者は,従来の管理型マネジメント理論とは異なる手応えを日々実感していたと語る。メンバーの自主性を重視し,管理の負荷をそぎ落とした自社の経営とクロスさせて,書名の通りマネジメントの“新解釈”を本書に開陳している。概念を象徴するキーワードは「内省型リーダーシップ」だ。従来は,経営者が正しく,社員は従うだけという管理・指導の関係が主流だったが,そのスタイルでは,上司が常に正しいとは限らず,部下のパフォーマンスも抑制されかねないと疑問を呈し,人は得意分野でこそ最大の成果を生み出せるので「弱みの克服はあえて目指さない」と“新解釈”を導いている。また,マネジャーには忙しさからの解放が必要だとして,仕事を減らすスキルに着目。不安・心配に備えるのではなく,その妄想を止めるアプローチをレクチャーする。上司の正しさに固執せず,部下の自主性を優先して成果を最大化するマネジメントは,確かにVUCA,アジャイル,多様性といった時代のキーワードと符合する。

●著者:島森俊央  ●発行:日本生産性本部
●発行日:2024年6月28日  ●体裁:四六版/285頁

はじめてリーダーになる女性のための教科書

 序章に続く6章・計56のトピックで構成された“やさしいリーダー読本”が登場した。「え,私がですか?」と昇格試験を打診されたその日の独白に始まり,管理職になってしばらくは「迷惑な熱血リーダー」で空回りしたと著者は打ち明ける。その後,「自分が引っ張るのではなく,みんなを後から押して目標に導く」という役割に目覚め,自分なりのスタイルを確立していったと明かしている。キャリアの考え方,仕事への向き合い方,メンバーへの接し方,指示の出し方などのノウハウを,学説知識ではなく等身大の体験談および複数の女性たちの声をベースに記述し,トピックごとにキーとなる「Tips」を1 行添えているので,肩の力を抜いてスイスイ読める。仕事を部下に任せられずに1人で抱え込んでしまう場合は「一緒にやりませんか」と声をかけるところから始めればいい,教えるのが苦手なら質問を受けることでカバーできる等,アドバイスは極めて具体的だ。そして,内容の多くは性別を問わず参考になるので,できれば男性リーダーにも勧めたい。

●著者:深谷百合子  ●発行:日本実業出版社
●発行日:2024年7月1日  ●体裁:四六版/223頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki