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書評 2024.09

EX 従業員エクスペリエンス

 画一的な処遇では従業員一人ひとりの価値を最大化できないという課題感からEX(従業員エクスペリエンス)が注目されていると本書は説明する。組織の歯車ではなく,個性・感情が認められている実感を持てれば従業員エンゲージメントは高まり,業績向上へのインパクトも大きいとEX向上に取り組む経営側のメリットも明かしている。本書に貫かれているのは「ポジティブな体験」というキーワードだ。逆説的に捉えると,イヤな体験が積み上がった「不機嫌な職場」の対極の姿だと合点がいく。EX向上を成功させる4つの要素(透明性・即時性・個別性・合理性)を整理したうえで,6つの領域(@リクルーティング/オンボーディング,Aキャリア・スキルディベロップメント,Bリワード/コグニション,Cネットワーキング,Dワークスタイル/ワークプレイス,Eウェルビーイング)に切り分けてポイントを詳述。さらに章を改め,この6つの領域で発揮すべき上司の役割に踏み込んでいく。EXの概念から上司のセリフまで,具体的に理解が進む。

●著者:加藤守和/土橋隼人  ●発行:日本能率協会マネジメントセンター
●発行日:2024年6月30日  ●体裁:四六版/199頁

採用ブランディング 新版

 1,000社以上の採用戦略に関わり,諦めかけていた中小企業を復活させてきた著者が独自のノウハウを公開した1冊。大企業と同じ土俵・手法で採用に挑んでもレッドオーシャンで苦しむだけだと全体構造を俯瞰したうえで,多くの人数を集めて適材を見つけるというのは運任せに過ぎないと疑問視し,母集団主義からの決別を迫っている。対して著者が提唱する「採用ブランディング」は,理念の一貫性がカギとされる。ピンポイントで自社に共感する応募者を見つけ,深いところでマッチングを得て入社に導けば,その後もエンゲージメントを高め,業績もアップする好循環サイクルが実現すると説く。実践編では,全社横断で採用チームを組成し,会社の強みを洗い出し,ペルソナを設定していくプロセスに沿って適材を効率よく採用する「21の法則」を紹介している。また,内定者フォローではお遊びイベントではなく,経営課題のケーススタディなど学びに結びつくプログラムを提案。ポイントをビジュアルで示した制作物のレクチャーも具体的で役立ちそうだ。

●著者:深澤 了  ●発行:WAVE出版
●発行日:2024年7月9日  ●体裁:四六版/224頁

企業と働く人のコミュニケーション

 社内の情報共有・社員間の交流を意味する「インターナル・コミュニケーション」の取り組みを取材し,29社(大学・病院を含む)の事例集に編集した1冊。コロナ禍を機に手段のデジタル化が一気に進むと同時に,各社ともリアルとオンラインのメリットを改めて検証している動向がうかがえて興味深い。また,社内報・イントラネット・チャット・リモート会議といったツールの選択に留まらず,誰に何を伝え,いかに活性化するかが悩みどころのようで,人事部門ともオーバーラップする課題に向き合う様子が把握できる。理念・指針の浸透という目的はほぼ各社で共通しつつも,社員間の情報格差をなくす例,社内報を外部にも公開し顧客と社員の情報格差の解消に努める例,経営会議を社員誰でも視聴可能な状態にした例,多言語化して世界規模での共有を試みる会社もある。「イントラネットに目を通しているほど暇ではない」という従業員側と「情報以上のメッセージを伝えたい」とする経営側との間で工夫を模索する担当者の奮闘もしっかり見届けたい。

●著者:美奈子・ブレッドスミス  ●発行:経団連出版
●発行日:2024年7月20日  ●体裁:四六版/221頁

中高年リスキリング

 人手不足・定年延長の時代といわれるものの,人が足りていないのは体力勝負のエッセンシャルワーカー分野であり,AIによる代行が進むホワイトカラーは人員過剰になると著者は警告する。その前提で,長く働き続けるにはリスキリングが欠かせないと見通しを語る。ただ,本書の内容は学習講座案内といった次元ではなく,一人ひとりがどのような人生戦略を描き挑戦すべきか,その過程で何を身につけるべきか,そのためにどのような投資をするかを整理し,働き方・生き方をガイドするスタンスとなっている。アクションの例では,一気に目標を目指さなくても,隣接分野での就労体験を通して類似のスキルを身につけ,段階的にキャリア・スキルを積み上げていく手段もあると紹介。また,複数の専門性に長けるダブルメジャーの強みに着眼し,副業から始めて,別の本業を生み出す方法もあると説く。マインドセット,自己投資,アンラーニングの練習,個人事業主が報酬をもらうための能力まで,体験ベースのアドバイスが読者の不安感を救ってくれそう。

●著者:後藤宗明  ●発行:朝日新聞出版
●発行日:2024年8月30日  ●体裁:新書版/271頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki